オトナの教養 週末の一冊

2018年11月30日

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 ペットを飼ったことのある人なら、あるいは家畜を育てたことのある人なら、当たり前じゃないかと一笑に付すような”発見”が、最近相次いで明らかにされている。

 それは、動物に「感情」や「意識」があるとか、現在だけでなく過去や未来にも思いを馳せているといった、これまではヒトの特権として扱われてきた知性や心に関する発見である。

(Marcus Millo/iStock/Getty Images Plus)

 本書は、ドイツの森林管理官が森で出会い、あるいは家や放牧場でともに過ごした動物たちの感情や意識について、近年の科学的知見をまじえながら、愛情あふれる筆致でつづったネイチャー・ノンフィクションである。

 進化論が教育の場でタブーとされているようなキリスト教圏の一部の人々はいまだに、創造主がヒトを万物の長たらしめたと信じて疑わないらしい。したがって、動物に関するこうした科学的知見に眉をひそめたり、都合のいい擬人化に過ぎないと批判したりする。

 一方、生きとし生けるものに等しくいのちを感じとる日本人にとっては、本書の内容の多くは、前からそう思っていたことがらの確認に過ぎない。その意味で、本書は日本人読者にとって、西欧の人々が動物をどう見ているか、という比較文化論としても興味深いかもしれない。

ドイツ人と森の「特別」な関係

 著者ペーター・ヴォールレーベンは1964年、ドイツのボン生まれ。大学で林業を専攻したのち、20年以上、ドイツ南西部のラインラント=プファルツ州営林署で働いた。2006年に役所を辞めてフリーの森林官となり、引き続き同地の森林管理を担当した。その間、多数の著作を世に出し、前著『樹木たちの知られざる生活』(早川書房)は世界で100万部を超すベストセラーになった。

 2016年には森林官の仕事を辞めて執筆業と森に関する啓蒙活動に専念している。同年発表された本書は、ドイツで27万部を売り上げ、28か国で刊行されている。

 訳者のあとがきによると、ドイツ人と森との関係には「特別なものがある」。ワンダーフォーゲル運動や「森の幼稚園」「森の墓地」など、ドイツ人の生活の折々に森は大きな役割を果たしている。

 単位面積あたりの木材生産量や自給率は日本より高く、「ドイツ人が森を愛することは、私たちが想像する以上なのだ」と、訳者は語る。

 その森で、木々の育成から森林整備、伐採や製材、販売までをトータルに管理するのが、森のスペシャリストたる森林官である。森林官になるには、専門学校や大学で特別な教育を受け、国の認定を得る必要がある。赴任地で暮らしながら、原則として退官まで同じ地域を担当し続ける。ドイツでは、人気の職業のひとつだそうだ。

 ひるがえって日本の森林は、管理が行き届かず、荒廃の一途をたどっている。ドイツの森林官のような総合的な専門職が日本の森にいたら、とうらやましくなった。

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