チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年8月25日

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 中国初の空母が試験航行を始めた。日韓や東南アジア諸国との海洋摩擦が頻発する中での海軍力の増強であり、周辺諸国の「中国脅威論」を刺激し、アジアの軍拡競争に拍車が掛かるのは必至だ。軍事専門家の多くは、中国海軍が難しい空母の運用技術を獲得するにはまだかなりの時間を要し、当面は脅威にはならないという。むしろ怖いのは、「富強国家」(豊かで強い国)づくりへ向けて、長期目標を掲げて着々軍備増強を続ける中国指導部の「力の信奉」とそれを支持する国民のナショナリズムだろう。

20年越しの夢

 「それでも遠い将来、中国は戦略情勢が大きく変化しない限り、必ずや空母保有に向かうだろう」。わたしが畏敬する軍事評論家、江畑謙介氏(故人)は1994年に出版した「中国が空母を持つ日」に記し、予言を的中させた。

 江畑氏が紹介した内部文書によれば、91年末、第1回全海軍工作会議は21世紀初めまでに中型空母2隻を保有することを基本決定した。東シナ海や南シナ海での領有権問題への備えに加えて、シーレーン防衛を強化する狙いで、沿岸防衛を重視から遠洋作戦能力を持つ海軍への脱皮を目指した。

 中国は92年2月、尖閣諸島や南シナ海の管制権を明記した領海法を施行した。同年10月、海軍司令官出身の劉華清上将(故人)が党中枢の政治局常務委入りし、海軍力強化の大号令をかけた。国営通信、新華社が最近配信した記事「中国人の空母の夢」によれば、劉氏は常々「空母を持てば、海軍の作戦能力、軍と国の威厳は高まる」と主張していたという。

 中国は空母保有の決定から20年がかりで実現への一歩を踏み出したのだ。2002年から遼寧省大連で改修されていた空母「ワリャク」(通常動力型、満載排水量約6万7千トン)はこの8月、5日間の試験航行を行った。同空母は1998年マカオ企業が海上カジノにするとしてウクライナから購入、当時は建造中で60%の完成度だった。

歴史的劣等感が出発点

 試験航行2週間前の7月27日、中国国防省報道官は記者会見を行い「わが国は科学研究と訓練に用いるため、中古空母を改造中だ」と述べ、初めて公式に空母保有計画を認めた。報道官は「平和外交と防御的な国防を堅持する」と平和主義を強調しつつ「海の安全や主権、権益を守るため」と空母保有の正当性を主張した。

 翌28日付の中国共産党機関紙、人民日報は国防省発表を第1面に掲載。第5、6面の2ページをすべて費やして空母特集を組み、世論の盛り上げを図った。同紙系列の環球時報社説は空母について「かなりの軍事的、政治的な抑止力になるに違いない。多額の費用はかかっても、中国の庶民の望むところだ」と国民の支持をアピールした。

 「国の守りが強まれば、少しは安心できる。最近も米国がベトナムと一緒になって、中国に敵対したり、不安だから」。北京の20歳代の女性は空母を無邪気に歓迎し、そばにいた若い男性も相づちを打った。

 多くの国民は北京五輪、上海万博などと並んで、中国の大国化を示す喜ばしいニュースとして空母保有を歓迎しているようだ。インターネット上には「巨費を投じて空母を造るより、教育や医療保険など国民生活の向上に税金を使え」という批判もみられたが、それは少数派のようだ。

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