WEDGE REPORT

2019年1月7日

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 あれからもう1週間が経過したものの、批判は少しも沈静化していない。とにもかくにも拳を交えた2人には申し訳ないが、確かに馬鹿げた試合だった。これまで幾度となく格闘技の試合を取材してきた筆者としても、これは偽らざる心境だ。

メイウエザーにダウンにさせられた那須川(AFP/AFLO)

 昨年大晦日の格闘技イベント「RIZIN 14」でプロボクシング元5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー(米国)とキックボクシングの〝神童〟那須川天心(TARGET)が対戦。3分3回のボクシングルールでのエキビションマッチながら、わずか1回2分19秒でメイウェザーが那須川をTKOで下した。

 那須川はメイウェザーの〝手抜きパンチ〟によってまるで玩具のように吹っ飛ばされながら3度のダウンを奪われた末、最後は足元がぐらついて立てず陣営からタオルを投入された。完膚なきまでに叩きのめされ、敗戦直後は子どものように号泣。5キロ以上もの体重差に加え、実績も経験も天と地ほどの開きがある両者がまともに戦えば、このような悲惨な結末になることは目に見えていた。

 いくら那須川がデビュー以来負けなしの33連勝中とはいえ、これはキックボクシングでの話だ。いくらプロボクサーを引退したとはいえ「PFP(パウンド・フォー・パウンド)最強」の称号も手にしたメイウェザーを相手に本気で大金星を狙えると考えていたとしたら、ボクシングを冒涜しているとしかいいようがない。

 RIZIN側はなぜ、こんな無謀マッチを組んでしまったのか。そもそも大晦日の興業での目玉選手を探していた昨年秋の時点でメイウェザー陣営からの売り込みがあり、渡りに船と飛び付いたのが舞台裏の流れだ。対戦相手はボクシング技術にそれなりの対応が出来る上、しかもスター選手となれば、もう那須川ぐらいしかいない。いくら体重がメイウェザーよりも軽かろうが、ハンディを背負ってでも世界のスーパースターと戦うことで世間の注目を集められると考えたのである。

 しかし、現実はそう甘くなかった。RIZIN側は当初、那須川のキックとバックブローによる攻撃を限定的に認めるように水面下で強く要請していたが、メイウェザー側は頑なに拒否。結局、那須川がプロボクサーのライセンスを持っておらず、しかもRIZIN側にもボクシングの試合をプロモートできる関係者がいないことなどの理由が重なって「ボクシングルールに近いエキシビション(現実にはボクシングルール)」という極めて不自然なルールで試合は強行された。

 まったく調整していなかったメイウェザーの体は明らかに絞れていなかった。しかも試合開始早々からニヤニヤと笑みを浮かべ、完全に那須川を小ばかにしていた。ただ、ここまでの時点でRIZIN側には「こちらが高額なファイトマネーを積んでいるのだから、きっとメイウェザーは遊び半分のまま最後の3ラウンドまで〝付き合ってくれる〟に違いない」という甘い読みがあったのも否めない。この試合は判定決着がなく、3回終了まで試合がもつれれば事実上の〝ドロー〟になるルールだった。

 那須川がパンチを放ってもメイウェザーは得意の神技的ディフェンスでかわしながらも倒しにはいかず、適当にお茶を濁す形で試合終了――。もしそうなれば那須川には「メイウェザーと引き分けた男」という名誉も得られると、どうやらRIZIN側の多くの関係者が踏んでいたようである。しかも「天心の一打はプロボクシング経験者のトレーナーが太鼓判を押すほどの威力なので、ラッキーパンチでも当たれば世紀の大番狂わせだって期待できる」などと大真面目に夢物語を抱く主催者側の関係者も実際に複数いた。格闘技をナメているし、噴飯もののコメントだ。

 ところが、その目論見は僅か139秒で木っ端微塵にぶっ壊された。キックルールが仮に認められていたとしても、那須川はメイウェザーに完敗していただろう。那須川の放ったラッキーパンチが試合開始早々に顔面をかするとメイウェザーは〝オマエがその気なら、終わらせてやる〟と言わんばかりに付き合うのをやめ、ギアをほんのちょっぴり軽く上げた。

 ここから残酷ショーのゴングが鳴った。メイウェザーは本気ならば相手の攻撃をスウェーイングでかわすが、この日は神技的ディフェンスを見せるまでもなく那須川のパンチをガードでブロックした末に叩きのめした。那須川のパンチの威力など恐るるに足らずと思っていたのだろう。

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