世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年2月12日

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 2019年1月28日、米国司法省は、中国に本社があり世界中でビジネスをしている世界最大の通信機器メーカーであるファーウェイ・テクノロジーズ(華為技術)会社と、その子会社2社―ファーウェイ機器米国会社とイランの子会社であるスカイコム・テク会社―及びファーウェイのCFO(最高財務責任者)である孟晩舟(Meng Wanzhou)―46歳でCathy MengとSabrina Mengの異名も持つーを起訴したと発表した。起訴の理由には、金融詐欺、マネー・ロンダリング、米国に対する詐欺共謀及び制裁違反が含まれる。

参考:Office of Public Affairs, Department of State, Press Release, January 28, 2019

(cnsphotography/-Panya-/iStock)

 この問題は、既に何年も前から起こっていることだったが、2018年8月22日、ニューヨークの連邦裁判所は、孟晩舟に対して逮捕状を出していて、彼女は、カナダのヴァンクーバーで12月1日に逮捕された。

 これに対して、中国は、報復するかのように、中国内でカナダ人を複数逮捕し、そのうち一人は、麻薬を理由に死刑判決を受けた。

 1月22日及び25日、カナダのマッカラム駐中国大使は、米国が孟晩舟の引き渡し要求を拒否することを望む、と述べた。これに対して、トルドー首相は、25日、マッカラムの大使の職を解任した。司法に政治が介入して、法的手続きを侵害しないことが重要であり、本人の認めるようにカナダ大使の発言は失言だった。

 カナダは、米国の孟晩舟の引き渡し要求と、中国の脅しの間で難しい立場にある。中国は、もし今後、孟晩舟が米国に引き渡された場合、中国にいる米国人を逮捕するのだろうか。こういうことが頻繁に起きると、安心して中国に行くことが出来なくなる。日本人に対しても、かつて尖閣諸島が国有化された際等に、人質的に逮捕されたことがあったし、現在もスパイ容疑等で、日本人が中国内で逮捕されることがある。

 トランプ大統領は、米中首脳会談が2月中に開催されるという中、本件に対して介入するという発言をしている。しかし、米国司法省は、きっぱり言った。「我々は、法の執行を行うのであり、貿易交渉の材料ではない。」と。

 確かに、3月1日に、米中貿易交渉の結果として、米国が中国からの輸入品に対して追加関税をかけるかどうかの判断が下される。一方、カナダから米国への孟晩舟の引き渡しの決定は、2月中には行われよう。水面下で、中国が必死にトランプ大統領を含め、米国側に交渉をしかけてきているのは容易に想像できる。

 米国は、ファーウェイを起訴した以上、司法手続きをたんたんと進めていくべきである。米中通商交渉における一つの取引材料にするというようなことはよくない。トランプ大統領は、「司法省に任せてある。」の一言で良いと思う。

 中国に民主主義国における司法の独立をよくわからせる必要がある。 カナダで逮捕され、米国に引き渡されるかどうかが問題になっている孟晩舟・華為技術副会長・CFO のケースも、米加間の犯罪人引渡条約とそれに付随する諸法律に従って処理されるべきであろう。これに対応して中国がカナダ人を恣意的に逮捕したように、在中国の米会社やその役員を起訴するなどをする場合にも、そういう人質作戦のようなものには、断固拒絶の姿勢を貫くべきである。そういう姿勢が、中国に世界的ルールを守らせることにつながる。これまでのところ、カナダはよく筋を通している。 

 中国のような共産党優位の国には、本当の意味で三権分立はない。行政権も司法権も立法権も共産党の指示に従うのが正しい在り方である。したがって、中国はこういう話を政治化することが正しく、政治的に解決できない問題はないと考えている。今回の米中通商交渉でも、ファーウェイ起訴問題は取り上げられるだろう。米国が司法の独立を主張しても、中国側には、言い逃れにしか聞こえないだろう。米中間のこういう認識の差は容易に解消されないから、この問題は米中通商交渉の進展への障害になると思われる。

 ただ、中国側には米中通商摩擦を、取引により、終結ではなくとも緩和したいとの動機がある。米国は、多少強気で、米中交渉に臨むように思われる。 日本でもファーウェイへの警戒心が出てきているが、こういう起訴を見ると、しっかりと警戒していくのが正しいと思われる。
 

  
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