海野素央の Love Trumps Hate

2019年3月1日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授、心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08~10年、12~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年及び12年の米大統領選挙においてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。著書に「オバマ再選の内幕―オバマ陣営を支えた日本人が語る選挙戦略」(同友館)など多数。

(AFP/AFLO)

 今回のテーマは、「2回目の米朝首脳会談、合意に至らなかった本当の理由」です。今回の米朝首脳会談後、ドナルド・トランプ米大統領は記者会見で、会談決裂の理由を「北朝鮮が完全な制裁解除を求めてきたので応じられなかった」と説明しました。

 しかし、それのみでしょうか。本稿では合意に至らなかった本当の理由について述べます。

米朝の「高い要求レベル」

 2回目の米朝首脳会談の交渉に影響を及ぼしたのは、同日にワシントンで開催されたトランプ大統領の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告の議会証言です。トランプ大統領はベトナムのハノイに到着すると、早速「コーエンは刑期を減らすためにうそをついている」と自身のツイッターに投稿しました。コーエン被告の公聴会にかなり神経質になっている様子が窺えました。

 コーエン被告は公聴会で、ロシアのハッカー集団が盗み出したクリントン陣営の情報を、告発サイト「ウィキリークス」が大量に流すことを、トランプ大統領は事前に認識していたと証言しました。

 さらに、2016年米大統領選挙の際中、コーエン被告がトランプ大統領が不倫した女性に「口止め料」を立て替えて支払い、同大統領が小切手で11回にわたり返済したことも明らかになりました。

 コーエン被告はトランプ大統領の署名入りの小切手を証拠として、米議会に提出しました。これで同大統領が選挙資金法違反の罪を問われる可能性が高まりました。

 このような状況下で、トランプ大統領はコーエン被告の証言いよるダメージを減し、批判をかわすために米朝首脳会談でより高いレベルの非核化を実現しようと考えたのでしょう。

 記者会見でトランプ大統領は、「ニョンビョン核施設のみならず、多くの核施設廃棄を求めた」と述べています。大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄、核施設リストの提出及び行程表の作成も含め、北朝鮮に対する要求レベルが、コーエン被告の証言を受けて一気に高まったとみてよいでしょう。

 一方、北朝鮮はコーエン被告の証言を分析した結果、完全な制裁解除を要求しても、証言によって傷つけられたトランプ大統領は譲歩してくると判断したのでしょう。北朝鮮は完全に読み間違えました。

 トランプ大統領にとって、経済制裁は北朝鮮との交渉を有利に交渉を進めていくためのレバレッジ(てこの力)であり、取引材料ではありませんでした。

 結局、コーエン被告の公聴会が影響し、米朝が互いに高いレベルの要求を行ったために、譲歩ができなくなり、会談は決裂したといえます。

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