WEDGE REPORT

2019年4月16日

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小山 堅 (こやま・けん)

日本エネルギー経済研究所・首席研究員

1986年早稲田大学大学院経済学研究科修士課程修了、日本エネルギー経済研究所入所。英国ダンディー大学博士課程修了(PhD取得)。2011年より常務理事。研究分野は国際石油・エネルギー情勢の分析、アジア・太平洋地域のエネルギー市場・政策動向の分析、エネルギー安全保障問題。

 2018年3月26日に上海先物取引所で人民元建ての原油先物取引が始まった。この1年間で専門家らの予想を上回る成長を遂げている。市場関係者によると、既に累計の取引高が3300万枚(330億バレル)に到達したとのことで、ニューヨークやロンドン市場に次ぐ、第3位の取引量だ。この急成長の背景には、中国が世界最大の原油輸入国として存在感を高めていることがある。

世界最大の原油輸入国である中国にできた原油の先物市場(REUTERS/AFLO)

 原油先物取引の国際指標にはニューヨークのWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)、ロンドンの北海ブレント、中東・ドバイなどがある。いずれも原油の供給ポイントでの指標であり、ドル建てであり、これらが世界の原油市場の価格形成の中心であった。今後、アジアの需給を反映する消費ポイントにできた上海市場での指標が、国際原油市場において徐々に影響力を持つことになることが期待されている。

 しかし、上海市場が真に国際指標となるには、その道のりは平たんでなく、従来の欧米等での国際指標に取って代わる存在には当面ならないだろう。

 その理由は2つある。1つは、欧米等の供給ポイントの市場には、生産者やバイヤー、トレーダーなど多様な国際的プレイヤーが集まり、さまざまな取引が活発に行われている。一方、消費ポイントにある上海市場の特性として、参加者の約9割が中国国内の関係者に偏っており、多様性という面で課題がある。

 2つ目の理由は、上海市場の参加者のほとんどが国内のプレイヤーであることの背景と関わりがある。海外プレイヤーがなぜ参加していないかというと、市場への信頼性にまだ課題があるということだろう。16年初に上海株が暴落した際に、中国政府が市場に強力に介入したことの記憶が新しい。その結果、海外の潜在的なプレイヤーが中国の「市場」全体に対する透明性や信頼性に不安を持つようになったと考えられる。市場への信頼性に課題がある現状のままでは、中国以外のプレイヤーの大量の参加は見込めず、結果、従来からの3つの国際指標に取って代わる、ということは難しいだろう。

 原油というのは世界最大の国際貿易財である。仮に中国が人民元建ての原油先物市場を真に国際的な市場にすることに成功するならば、ロンドン、ニューヨークに並ぶ、エネルギーやコモディティ、金融を含むアジアの一大取引センターとしての地位を築くことに大きく貢献するだろう。

 また、原油は長年ドルとリンクしてきたが、仮に人民元建ての原油取引が活況を呈し、世界の指標になることになれば、基軸通貨であるドルに対抗する通貨として人民元の存在感を高める重要なステップになりうる。中国は、政府として、旺盛な購買力を背景に、中・長期的視点にたち戦略的に動いているともいえる。しかし、市場の信頼性をいかに高められるかが、決定的に重要な課題である。(談)

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■人民元の虚像と実像 「元の国際化」を目論む中国のジレンマ
PART 1   ドルに挑む「人民元」 市場が主導するシェア拡大
INTERVIEW 1年で急成長を遂げた人民元建て原油先物市場の行方
PART 2         政治に左右される為替管理 国家資本主義・中国の限界
PART 3         通貨の覇権を巡る百年戦争
PART 4         挫折した円の国際化とドル・元の攻防

  
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◆Wedge2019年4月号より

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 
 

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