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2019年3月20日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

周辺住民の帰還と同時進行する廃炉作業

 ところが、原子炉内の状況を探るロボットなどの機器の開発と、作業手順は手探りの状態が続いている。原子炉にロボットなどを上部から降ろすには、オペレーション・フロア(オペフロ)に散乱する瓦礫を除去しなければならない。しかし、オペフロの放射線量は極めて高い。作業員が年間に許容される線量が、たった20分で達してしまう。

 2号機は、1号機と3号機とは異なって、建屋の水素爆発が起こっていないので、ウランがオペフロに充満している。

 いずれも、格納容器は水で冷やされ続けている。デブリの状況はそれぞれで問題を抱えている。3号機はロボットによる格納容器の調査を進めたところ、堆積物に金属の筒が刺さっていてデブリの取り出しが難しい。金属物は原子炉から落下してきたものと推定されている。1号機はさらに困難を極めている。デブリに金属片があって、ロボットによるデブリの確認作業が進んでいない。

 廃炉作業に取り組んでいる作業員は、1日当たり約4000人。そのほとんどが原発周辺の住民であることは、原発事故以前に働いていた住民が多いことは想像していたものの、その数には驚かされる。

 地元の原発関連企業で働く、佐藤哲男さんはいま、原発内の排気塔の解体作業に取り組んでいる。地元の浪江町からは、原発の象徴のように高い排気塔が見える。

 「もともと、原発の作業員として働いていた。排気塔がなくなれば、廃炉作業が進んいることを周辺の住民に知らせることができると考えている」という。

 福島原発事故の収拾に向けて、廃炉作業は、周辺住民の帰還と同時進行しているという、世界でも初めての試みなのである。

 富岡町には約900人が帰還している。地元の小中学校では、室内と校庭の計3カ所で生徒たちが放射線量を調べている。数値は国の基準を上回ることはない。一方で、放射線に対する回避行動などの授業も始まっている。

 原発敷地内に林立している、汚染水を貯めたタンク計950基の問題も住民にのしかかっている。国の原子力規制委員会は、トリチウムを除去基準値以下にして、海に流すのが合理的である、としている。漁業者は風評被害を恐れる。原発事故によって、漁業が禁じられた水域の操業が徐々に認められ、魚の出荷もその種類が約200と事故前の水準に戻っている。

 漁業者の小松諒平さんは「ようやく高い壁を乗り越えたと思ったら、(汚染水の海洋放出は)突き落とされるような思いだ」という。

 NHKスペシャルは、原発事故のメルトダウンについても、シリーズでその原因を探ってきた。原因を探ると同時に、廃炉の課題を提示する調査報道が今後も続いていくことを願わずにはいられない。それは、他のメディアについてもいえることである。


  
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