2024年4月23日(火)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年4月2日

中国脱出、李嘉誠氏の「逃げ方」

 李氏は2013年10月の東方匯経中心の売却を皮切りに、2014年57.5億香港ドル、2015年66.6億香港ドル、2016年200億香港ドルというペースで中国や香港の資産を売却し、その総額が1761億香港ドルにも上る(3月26日付け台湾・信伝媒(CredereMedia)記事)。

 2015年1月、李嘉誠氏は長江グループと和記黄埔有限公司を合併させ、会社の登記地をケイマン諸島に移す。2017年、李氏は香港のランドマーク級の大型資産「中環中心(The Center)」を売却した。一連の大型売却で得た巨額の資金を中華圏から引き揚げ、欧州や北米、豪州などにシフトさせ、ポートフォリオの組み替えを着々と進めた。

 李嘉誠氏は裸一貫から世界級の富豪に這い上がった人物で、ビジネスのセンスに優れているだけでなく、政治的な嗅覚も抜群に鋭い。本社転出の一件を考えても、香港は自由貿易港であり、利便性がよく、法人税も高くないため、一般人が考えるような節税策ではないことが明らかであった。

 ゴールド資産を大量購入し始めたのも2017年。同年4月20日付の台湾・経済日報が報じたところによると、李氏は金鉱企業関連の投資だけでなく、大量の金地金も購入した。初の大量ゴールド資産投資だったという。

「有事の金」というが、ゴールドは換金性が高く、戦争や革命、ハイパーインフレなど「有事」の際、「最後のよりどころ」として買われる。だが、2016年に北朝鮮が続々とミサイル・核実験を行い世界を恐怖に陥れても、李氏はすぐには動かなかった。2017年になって李氏が初の金大量購入に踏み切ったのはなぜか、その理由は他人には知り得ない。ただ、彼がポートフォリオの組み替えにアクティブに動き出したこと自体が注目に値すると、私は考えた。

 中国や香港からの撤退。巨額の投資を引き揚げた李氏を「儲け逃げ」と批判する中国や香港の世論もあったが、李嘉誠氏は公開書簡を発表し、「私は商人だ。ビジネスマンだ。道徳家ではない。利益を出すことはビジネスマンの本質的な価値所在だ。利益を上げられない商人は良い商人ではない。昨今のグローバル時代では、資本の流動は当然だ。資本に国境はない」と世論の批判を一蹴し、「撤退の罪」を全面的に否定した。

 批判は李氏と中国本土の権力との結託まで及ぶが、李氏は「政府との協力はウィンウィンの原則に基づき、利益を上げるだけでなく、中国本土に資金や技術をもたらし、人材も育成したことで、中国の発展に寄与した」とし、共存共栄の正当性を主張した。


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