2022年6月30日(木)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年4月2日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 
2018年3月に引退を表明した香港の大富豪・李嘉誠氏(写真:AP/アフロ

中国撤退、逃げ遅れた外資企業の苦悩

 李嘉誠氏の中国撤退は終盤に差し掛かった。

 香港最大のコングロマリット長江和記実業(CKハチソンホールディングス)元会長、世界28位の富豪(2019年3月フォーブス発表)李嘉誠氏の中国資産(香港を含む)が総額ベースで1割に縮小し、欧州資産は5割を超えた。李氏は過去6年にわたって段階的に撤退し、中国からフェードアウトしたのである。3月25日付けの台湾・自由時報が、ハチソン社が発表した2018年度の同社財務報告を引用し報道した。

 ハチソン社の総資産額は2018年末現在、1兆2322.44億香港ドル。そのうち香港を含む中国資産は1424.38億香港ドル、総資産額の11.55%を占め、2015年末の19.21%からほぼ半減した。これに対して欧州資産が2018年末現在、6736.9億香港ドル、総資産額の54.67%を占め、欧州が同社のメイン投資先になった。

 米中貿易戦争の長期化を背景に、中国は資本流出に神経をとがらせ、外貨管理を強化している。中国事業から撤退しようとする多くの外資企業は、海外向けの送金まで難しくなってきたことに頭を抱えている。早い段階で撤退の決断ができなかったことを悔やむ一方、李嘉誠氏の「先見の明」を讃えた。

明暗の分かれ目、2008年の異変

 李氏が中国撤退の英断を下したのは、2013年頃と推定される。同年10月、李氏は建設中の上海陸家嘴東方匯経中心(OFC)を90億香港ドルで売却した。私は同年10月に上海からマレーシアへ移住した。クアラルンプール市内の新居に入ってわずか2週間後、この一報に接して驚いた。

 私は2000年に東京から上海に居を移し、以降、中国に進出した日系企業向けの経営コンサルに特化して取り組んできた。分水嶺となったのは中国が繁栄の頂点に達しつつあった2008年の労働法の改正。正確に言うと、「労働契約法」という新法の施行である。この法改正は中国経済や産業界に大きな衝撃を与えた。簡単に言ってしまえば、企業は労働者を解雇したり、減給したりできなくなり、ほぼあらゆる人事権を実質的に失ったのである。

 日本流に言うと、それまではすべて非正規雇用社員だったが、一夜にしてほぼ全員が終身雇用で減給不能の正社員に変身する――それくらいの激変であった。当時、著名な経済学者(中国経済研究)である香港大学経済金融学長・張五常氏 (スティーブン・チョン)はそのレポートにこう記した――。

「労働契約法は、怠け者を保護する法律だ。市場の反応は、災難の予兆を示している。今年(2008年)は中国経済改革開放の30周年だが、人類史上かつてないこの偉大な改革は、労働契約法によって崩壊する可能性が大きい」(拙著(共著)『実務解説 中国労働契約法』(中央経済社))。

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