外資企業は「年老いた糟糠の妻」
結論からいうと、張教授の予言は見事に的中した。
2008年秋のリーマン・ショック後、中国が打ち出した4兆元(当時のレートで約57兆円)の景気対策は、中国だけでなく、世界をも救ったとされる一方、中国国内では地方政府や国有企業の債務を急増させ、不動産バブルといった後遺症ももたらした。労働市場では、労使紛争が急増し、労働力コストも年々上昇した。
私が2007年9月1日号の当社会員誌に寄稿したコラムの一節を抜粋する――。
「中国の外資導入は、加工貿易から始まった。ところが、輸出税還付から加工貿易政策の全面的な調整まで、最近一連(2007年以降)の動きから、加工貿易時代の終焉をはっきり感じ取れるようになった。80~90年代にあれだけもてはやされた加工貿易だが、いよいよ中国政府に切り捨てられる。思わず『薄情者』と非難したくなる一方、冷静に考えると納得もする。中国に外貨が溜まった。労働集約型で安い工賃を稼ぎながら、貿易黒字や環境破壊で諸外国に指弾されると、さぞかし気分はよくない。年老いた糟糠の妻を家から追い出したくなる。家に残りたければ、もっと若い美人妻に変身しろと。中国語の経済用語で言えば、いわゆる『産業結構優化』、『転型正義』『転型痛苦』、つまり『産業構造のグレードアップ(モデルチェンジ)は、正義である。薄情かもしれないが、その苦痛に耐えるべきだ』ということになる」
中国にとって労働集約型の外資企業は年老いた糟糠の妻になり、外資の全盛期は終わったのだ。2008年以降、各方面において不安の兆しがじわじわと見えてきた。仕事場を中国から東南アジアへ移転しようと私が画策し始めたのは、2010年のことだった。
中国進出日系企業の「3つのグループ」
2012年春、マレーシアへの移住が決まったその直後に、反日デモが中国を席巻した。2013年1月1日付けの産経新聞は、私に対する取材記事を掲載した。その一節を抜粋する――。
「立花氏は中国ビジネスを手がける日系企業を3つのグループに分けて戦略を練るよう訴えた。
まず、中国に加え東南アジアなど別の進出先で製品供給のバックアップ態勢を取る『チャイナプラスワン組』。ただし 資金や人材に余力のある企業でないと難しい。次に、取引先が全て対中進出し、販売市場が中国にしかないため、中国にしがみつくしかない『チャイナオンリー組』。この場合は、日本の成功体験を捨て、徹底的に現地化、中国化を進める必要がある。
最後は、労働集約型の工場など、労賃の急騰や労働力不足で今後、経営悪化が予想され、中国での成長が全く望めない 『チャイナゼロ組』だ。『投下資金の回収を断念してでも、早期の撤退を決断すべきだ』と立花氏はいう。
中国は政府関係者や既得権益層など20%の特権階級が国家の富の80%を握るとされる。不正蓄財での富のゆがみが大きく、中間所得層による爆発的な消費市場の拡大は望み薄とみる。
立花氏は、『低成長時代に入ると一部の特権階級は中国でのうまみを失い、不正蓄財を含む資産を持って海外に逃げ切ろうとするだろう。そうなれば大多数を占める負け組だけが取り残され、13億人の中国は“幻の市場”に。社会動乱の要因が拡大する』という」
私は経済学者でなく、経営コンサルタントである。中国経済の将来を見通してナンボという立場にない。ワースト・シナリオを想定し、それに備えて企業経営に逃げ道を作るのが仕事である。とはいっても、情勢を判断するためのベンチマークはいろいろ持っていた。その中の1つが、李嘉誠氏の動きである。