世界で火花を散らすパブリック・ディプロマシーという戦い

2019年4月23日

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桒原響子 (くわはら・きょうこ)

未来工学研究所研究員・京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教

1993年生まれ。2012年米国ウエストバージニア大学において、国際政治学や通訳翻訳等を学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。笹川平和財団安全保障事業グループ研究員、外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官を経て、現職。専門は、国際公共政策、パブリック・ディプロマシー、ストラジック・コミュニケーション、メディア研究、世論等。

 「China Watch(チャイナ・ウォッチ)」

 さて、これが何かをご存知だろうか?

 「チャイナ・ウォッチ」は、ワシントン・ポストやウォール・ストリート・ジャーナル等、米国を中心に、世界中の有力新聞の中で、目にする機会が増えたと感じるようになった。そこで取り上げられている内容は政治・経済・社会・文化といった時事ネタが中心で、紙面の構成まで、普通の新聞と何ら変わりない。

 しかし、これは前述の大手新聞社が発行している新聞ではない。中国のプロパガンダなのである。中国政府が発行するもので、米国等の有力新聞社に資金を投じることで、彼らが発行する新聞の中に紛れ込ませて購読者の手に渡るよう、計算されて作られている。「チャイナ・ウォッチ」は、各国からプロパガンダ・キャンペーンと批判されている、中国のパブリック・ディプロマシー(PD)の一戦術なのである。

 今回は、前編と後編の2回に渡って、「チャイナ・ウォッチ」の正体に迫ることとしよう。

一見普通の新聞のようであるが……(写真:AP/アフロ)

「正しい」情報に特化したプロパガンダ・キャンペーン?

 「チャイナ・ウォッチ」は、中国政府が運営する英字新聞社「China Daily(チャイナ・デイリー)」が発行する「広告」だ。新聞記事で構成されているように見えても、新聞ではない。しかし、「広告」といえども、一般的な広告などではない。

 チャイナ・デイリー社は、1981年に北京で設立され、2009年9月にニューヨークに進出して以降、徐々に規模と活動を拡大させ、今ではワシントン、シカゴ、サンフランシスコ、ヒューストンといった米国の大都市において支局を展開するまでとなった。

 中国は、その経済成長を武器に、米国の大手新聞社に対する影響力を拡大し、自国にとって都合のいい情報ばかりを現地で報道させることで、米国の世論づくりに影響を与えてきたのだ。

 そのチャイナ・デイリー社が発行するものの一つが、今回のテーマである「チャイナ・ウォッチ」なのである。「チャイナ・ウォッチ」と題する「広告」記事が新聞記事と混じって掲載されたり、折り込み式広告として海外の大手新聞に差し込まれたりしている。

 ではなぜ、中国がここまで米国紙に影響力を持っているのだろうか。それは、中国政府、そして中国共産党がニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストの紙面を定期的に買っているからだ。

 昨年末、英国紙ガーディアンが、こうした中国のPDを「プロパガンダ・キャンペーン」として、最新状況を報じた。その記事によると、中国のこうした「広告」の目的は、“Tell China's story well”、つまり「中国を正しく伝える」ことだという。

 中国共産党の管理の下、中国国内にはむろん「報道の自由」がない。その一方で中国は、「報道の自由」の脆弱性を突いて、海外の主要新聞メディアを利用し、自国にとって都合のいい報道、つまりは「中国を正当化する報道」のみを伝えるという、大胆な世論工作を行っているというのだ。

 中国がこの方策を展開し始めたのは、つい最近のことである。実はこれまで、中国の世論工作は国内社会をターゲットにしたものがほとんどだった。チベット問題、台湾問題、天安門事件など、中国が世界から批判されており、このような中国が触れてほしくない、つまり中国の悪いイメージが海外で伝えられている情報は、国内ではことごとく排除され、中国国民の目や耳に入らないよう情報統制されてきた。いわば、「防御的」世論工作だ。

 それが、この10年あまり、中国はその方策をより洗練させ、攻撃的な戦略へと舵を切り出した。つまり、ターゲットを国際社会にした「攻撃的」世論工作である。その手法が、世界中の情報環境に資金を投入し、対外的に中国がポジティブで好印象と映るよう、中国に関するニュースを操作させるというものなのだ。それが、“Tell China's story well”というわけである。

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