はじめまして、法学

2019年4月25日

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遠藤研一郎 (えんどう・けんいちろう)

中央大学法学部教授

中央大学法学部教授、通信教育部長。獨協大学法学部非常勤講師。専門は 民事法学。1971年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修 了。岩手大学人文科学部講師、助教授、獨協大学法学部助教授、中央大学法 学部准教授などを経て現職。おもな著書に、『高校生からの法学入門』(中 央大学出版部)、『民法(財産法)を学ぶための道案内』(法学書院)など。

書籍『はじめまして、法学 ―身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(遠藤研一郎 著)より抜粋してお届けします。2回目は、意外と知らない「刑事裁判の流れ」について。

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逮捕!その後…

 事件といっても、法的に見た場合、「刑事事件」と「民事事件」では大きく異なります。映画やテレビでよく出てくる刑事事件。ニュースでもよく取り上げられる刑事事件。ですから、多くの人にとって、刑事事件はそんなに身近ではないはずなのだけれど、なんとなく身近に感じてしまいます。では、刑事事件が、法的にどのように処理されていくのでしょうか。簡単にまとめておきましょう。

 まず、刑事事件は、犯罪被害者や一般市民から告訴・告発がなされたり、警察官の職務質問によって犯罪の嫌疑が生じたりすることが端緒となります。その後、警察官が主体となって、罪を犯したことが疑われている人(被疑者)に対して、捜査が行われます。

 そして、捜査によって十分な証拠が集まって、刑事裁判をする必要があると検察官が判断した場合、「起訴」されることになります。起訴するかどうかは、検察官の判断に任されています(専門的には、これを起訴便宜主義といいます)。数だけ見ると、検察官の判断で不起訴処分とする場合が多いのが現状です。不起訴となる理由はさまざまですが、おもなものとして、決定的な証拠がない、真犯人が出てきた、被疑者が深く反省している、犯罪が軽度である、再犯の恐れがないなどがあります。

*法務省「平成29年度版 犯罪白書」によると、平成28(2016)年における検察庁終局処理人員総数をベースにした場合、起訴猶予率は全体で64・3%であった。また、刑法犯では52.0%、過失運転致死傷等では88.8%が起訴猶予であった。

 他方、起訴されるとなると、刑事裁判(公判手続)に移ります。刑事裁判は、国家が主体となって、殺人、傷害、強盗、窃盗、横領のような犯罪をしたと疑われる人(被告人)に対して、有罪・無罪を決めたり、量刑などを決めたりするものです。どんなに凶悪な犯罪をした人でも、裁判がなされないまま刑罰を加えられるということはありません。

刑事裁判の流れ

 次に、刑事裁判(公判手続)について触れておきましょう。検察官によって起訴がなされると、公判手続に移ります。公判手続は、およそ、

 (1)冒頭手続 → (2)証拠調べ手続 → (3)弁論手続 → (4)結審・判決宣告

 という流れになります。(1)は、起訴状の朗読、黙秘権の告知など、刑事裁判をスタートさせるための手続です。そのあと、(2)で、検察官が証拠によって証明する事実を述べた(これを「冒頭陳述」といいます)うえで、さまざまな証拠のチェックを行います。そのうえで、(3)で、検察官と弁護人の双方が、有罪・無罪だとする根拠と量刑に対する意見を述べます。被告人の最終陳述もなされます。そして最後に、(4)で、裁判所から判決が出されます。

刑事事件発生→刑事裁判 の流れ 写真を拡大

 この間、裁判で有罪が確定するまでは、被告人は犯罪をしていないことを前提に扱われます。そして、どんなに被告人が怪しくても、検察官が被告人の犯罪をしっかりと証明できなければ、無罪となります。犯罪を裏付ける確実な証拠がないまま、犯罪が疑われただけで刑罰が与えられると、冤罪が生まれてしまう恐れがあり、無実の人の生命・自由・財産などが不当に奪われてしまいます。それを避けるために、「推定無罪」、「疑わしきは被告人の利益に」などが原則となっているのです。

[憲法31条]
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若もしくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

 この憲法の規定も、被告人も有罪が確定するまで無罪として扱うべきであるという意味を含んでいると理解できます。ただし、実際の刑事訴訟においては、起訴されれば、99.9%有罪となっているのが現状です(そんなタイトルのドラマもありましたね)。これは、ほぼ有罪になるもの以外は、検察が起訴しないことと関係があります。

 なお、有罪となった場合には、刑罰が科されます。日本には刑罰として、生命を奪う「死刑」、自由を奪う「懲役」・「禁錮」・「拘留」、財産を奪う「罰金」・「科料」があります。また、これらの刑罰に加えて、「没収」が追加される場合もあります。

刑事訴訟法という法律

 刑事訴訟法という法律があります。六法の1つとして位置づけられます。刑法という法律が、どのような行為が犯罪となり、どのような刑罰が与えられるのか、というカタログを示した法律であるのに対し、刑事訴訟法は、犯罪をした人に刑罰を与えるために必要な手続を規定した法律といえます。別の言い方をすると、本当に犯罪があったかどうかを決定するためのプロセスを示した法律です。

 なお、刑事訴訟法の役割(存在意義)は、単なる形式的な手続を規定しているにとどまりません。先ほど紹介した憲法31条にあるように、刑事訴訟法の定める手続によらなければ、国家は、国民に刑罰を与えることができません。刑事訴訟法によって、国家が恣意的に特定の人を犯罪者に仕立てたり、特定の人に不当な刑罰を与えたりすることを防いでいるのです。

[刑事訴訟法1条]
この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする。
 

 たとえば、路上で挙動不審なAさんを発見した警察官が、令状なしにAさんの身柄を拘束したうえで、強制的に採尿をしたところ、その尿から覚せい剤が検出された場合はどうでしょうか。また、Bさんについて常習の窃盗が疑われたので、警察が、Bさんの車に、令状なしにGPSをつけたうえで追跡をし、犯行に及んでいるBさんを発見し、取り押さえた場合はどうでしょうか。このような方法によって収集した証拠を、裁判の際に採用してよいのでしょうか? それとも、そのような証拠は排除すべきなのでしょうか?

 これは、刑事訴訟法における、「基本的人権の保障」と「事案の真相を明らかにすること」との調和をどのように図るかという問題と大きく関係しているのです。「証拠能力を排除して無罪にしてしまうことは、危険な人物を社会に放してしまうことになるじゃないか!」との意見もあるでしょう。他方で、「違法な方法でも捜査ができるとなると、私たちの人権が脅かされる恐れがあるのではないか!」という意見もあるでしょう。刑事訴訟法には、その狭間で調整を図る役割があるのです。

何が「犯罪」なの?

 読者のみなさんもご存じのとおり、犯罪に関する基本法は、刑法です。明治40 (1907)年に公布、翌年に施行されました。法上では、さまざまな犯罪類型が規定されています。法的に保護しなければならない何らかの利益(法益)がある場合、この法益を侵害する行為を「犯罪」として禁止しているのです。

 保護法益ごとに犯罪を大きく分けると、(1)個人の利益を侵害する犯罪、(2)社会・公共の利益を侵害する犯罪、(3)国家自体の利益を侵害する犯罪 に分類することができます。

(1)個人の利益の侵害

 殺人、傷害、過失致死傷、逮捕・監禁、強制わいせつ、住居侵入、業務妨害、名誉毀損、強盗、窃盗、横領など

(2)社会・公共の利益の侵害

 放火、往来妨害、通貨偽造、文書偽造、公然わいせつ、賭と博ばくなど

(3)国家自体の利益の侵害

 内乱、公務執行妨害、逃走、犯人蔵匿、証拠隠滅、汚職など

 これらの犯罪名のほとんどは、ニュースなどで聞き覚えのあるものだと思います。ただし、犯罪の類型は、刑法に定められているものに限りません。刑事罰を伴うような禁止行為が規定されている法律がたくさんあります。たとえば、インサイダー取引(金融商品取引法)、特定の株主に対する利益供与(会社法)、高金利での貸付け(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)などです。

 いずれにしても、このように、刑法を中心とした法律によって、法益が守られているからこそ、私たちは、安心して毎日を過ごすことができるのです。

著者:遠藤研一郎(えんどう・けんいちろう)
中央大学法学部教授、通信教育部長。獨協大学法学部非常勤講師。専門は 民事法学。1971年生まれ。中央大学大学院法学研究科博士前期課程修 了。岩手大学人文科学部講師、助教授、獨協大学法学部助教授、中央大学法 学部准教授などを経て現職。おもな著書に、『高校生からの法学入門』(中 央大学出版部)、『民法(財産法)を学ぶための道案内』(法学書院)など。

  
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