立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年5月21日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 
iStock / Getty Images Plus / liulolo

 

終着駅に近付いた李嘉誠の「中国撤退」

 李嘉誠氏の中国撤退は終盤に差し掛かったと、4月2日付けの拙稿「香港大富豪の『中国撤退』がついに終盤戦へ、経営の王者・李嘉誠氏の脱出録」で詳述したが、ついに、その終盤のまた終着駅に近付いた。

 5月15日付けのブルームバーグは消息筋の情報を引用し、李氏は上海にある200億人民元規模の大型物件を売却すると報じた。

 報道によると、売却対象となる「高尚領域」は、上海市普陀区の中心部に位置する延べ面積120万平米に上る大規模複合開発プロジェクト。官庁や高級住宅、商業施設、高級ホテルを併設するランドマーク的な存在であり、また李氏傘下の長江和記実業(CKハチソンホールディングス)が上海で所有する最後の大型開発プロジェクトでもある。

 李嘉誠氏の中国資産(香港を含む)はすでに総額ベースで1割にまで縮小し、その売却資金のほとんどが欧州等の投資に流れたという。李氏は過去6年にわたって段階的に撤退し、中国からフェードアウトした。現在はいわゆる最終段階の「後片付け」に入っている。

 李嘉誠氏の中国撤退は、先見の明があった。7年前、2012年の中国経済はリーマンショックから回復し、絶好調だった。栄枯盛衰は世の習いとはいうが、あの時点で李氏は今日の米中貿易戦争まで正確に予測できなくとも、概ね世の流れを正しく読んだといえる。

 今、米中貿易戦争が激化するなかで、対米輸出の問題にとどまらず、中国経済全体に異変が起きつつある。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学者、兪偉雄氏は台湾系中国語メディア「大紀元」の取材に対し、米中貿易戦争の激化・長期化で中国当局が直面する最も深刻な課題は、各国企業の中国撤退が加速化することだと指摘した。

 「過去30~40年間、世界の工場とされた中国には、世界各国企業の製造拠点が集中した。米中の戦いの激化によって、このサプライチェーンが崩壊の危機にある」

 サプライチェーンの移動について、兪氏は「現在中国で生産されている製品のほとんどは輸出向けだ。米国の関税引き上げで、中国に進出する製造企業の競争優位性が低下し、台湾企業や韓国企業、日本企業、米国企業が今後それぞれ自国、または東南アジア諸国に生産移管するのは、大きな流れになってくるだろう」と分析する。

 中国市場を対象にしていない製造業は、一刻も早く中国から撤退しないと、新たなサプライチェーンの構築や競争に乗り遅れるわけだから、必死だ。産業の中核は何といっても、このサプライチェーンである。

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