Washington Files

2019年6月24日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

(iStock.com/flySnow/Purestock)

 トランプ大統領が就任以来、国民向けに約束してきた道路、港湾、空港などの大規模インフラ整備計画が、ここにきて頓挫している。数兆ドル規模の巨額インフラ投資が実施されれば、日本はじめ外国企業もそのおこぼれにあずかれるはずだったのだが……一体何が起きているのか。

 「アメリカはこれまで自分の国のみじめで老朽化したインフラを放置する一方、外国のために何兆ドルも出費してきた。これからは“アメリカ・ファースト”で国じゅうに新たな道路、ハイウェー、橋、空港、トンネル、鉄道を建設していく。そしてアメリカを再び強靭で、豊かで、誇りの持てる安全な国にしていく!」

 トランプ大統領は去る2017年1月20日、大統領就任演説でこう高らかに謳いあげ、国民に対し大規模なインフラ整備計画に着手することを約束した。

 その後、昨年および今年の年頭教書演説でも、内外政策の指針を示した中で、国内インフラ再建の重要性を強調した。

(Jon Shireman/gettyimges)

 ところが、それから2年半が経過した今日、インフラ事業の概要、法案準備など、当初の国民への約束とは裏腹に、ほとんど具体的な進展も見られない。それどころか最近では、ホワイトハウスが、米議会とくに民主党が多数を占める下院各委員会における大統領周辺のさまざまな疑惑追及をかわすことに時間をとられ、インフラ関連予算のねん出などの課題が後回しになっているのが実態だ。

 それが如実に示されたのが、先月22日、大統領がインフラ問題で議会の協力を仰ぐためナンシー・ペロシ下院議長ら民主党指導部と行った会談での予想もしなかった奇妙なハプニングだった。

 ニューヨーク・タイムズ紙の報道によると、同日午前、ペロシ議長、チャック・シューマー上院民主党院内総務らがホワイトハウス閣議室で待機していたところ、大統領が予定より少し遅れて入室、挨拶も握手もなしに、立ったまま民主党に対する怒りと不満をぶつけ、着席もせず3分後には退出してしまった。

 当初の予定では、この日、すでに双方で合意ずみの概算2兆ドルにおよぶ巨額インフラ予算について、その具体的配分など重要な協議が行われるはずだったが、空振りに終わった。ゲストを閣議室に残したままローズガーデンに出てきた大統領は、待機中の報道陣相手に緊急記者会見に及び「彼ら(ペロシ議長ら)は、自分が下院調査委員会の審議に協力せず、カバー・アップ(隠ぺい)しているなどと言っているが、とんでもない。隠ぺいなんかしていない……インフラ計画は自分はやりたい。しかし、こんな状況ではそれもやれない。インチキな議会調査はやめるべきだ」などとまくし立てたという。

 この後、ホワイトハウスから議会に戻ったペロシ議長は「大統領はインフラ協議をパスした。なぜ彼があんな行動に出たのか理解できない。とにかく大統領とアメリカ合衆国のために祈るしかない」と肩をすくめ、シューマー院内総務は「あきれてあごが落ちそうになった。大統領は2兆ドルのインフラ資金をどう工面するか窮しており、今回の協議中止も煙幕を張るための初めから仕組まれたシナリオだ」と“解説”して見せた。

 このようなトランプ政権vs議会のごたごたをさておき、アメリカの今日の道路、橋、空港、港湾などの社会インフラは、大統領が年頭教書でも指摘した通り「みじめで老朽化してしまった」(America’s infrastructure has fallen into despair and decay)ことには変わりない。

 筆者も、長年の滞米生活で実感した具体例を挙げるとすれば(1)大都市のみならず地方でも貯水池浄化装置や水道管の老朽化が進み、家庭で安心・安全に飲める水道水がない(2)雷雨などによる一般家庭の停電がひんぱんにある(3)橋梁、高架道路の一部崩落、棄損事故が後を絶たない(4)ニューヨーク、ワシントンなどの地下鉄停車駅にトイレがない(5)地方、主要都市問わず公園の清掃・保全が不徹底(6)公営バスの時刻表があてにならず、遅延や間引き運転はざら―など、枚挙にいとまがないくらいだ。

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