家電の航路

2012年2月7日

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前田 悟 (まえだ・さとる)

金沢工業大学客員教授

(株)SOW他複数企業特別顧問。1951年岡山県生まれ。ソニーで、世界初の無線TVエアボード、ロケーションフリーTVなどを開発。07年にケンウッドに移籍し、2008年JVC KENWOOD Holdings㈱執行役員常務に就任、2011年6月退任まで技術戦略、新規商品開発を担当する。2010年7月から、金沢工業大学客員教授、現在は複数企業の特別顧問も行っている。

 携帯電話にしても、テレビにしても日本の家電は頻繁にモデルチェンジが行われるため、商品の数も増える。一方、Appleの商品はモデルチェンジをするまでの期間が日本メーカーに比べて長く、結果として利益率も高くなる。魅力的で新しいLife Styleを与えられる商品であれば、そんなに多くの機種を出す必要もなく、商品寿命も長いのである。まさに、商品に個性があるからこそ通用するビジネスモデルだ。

 スティーブ・ジョブズ自体、あまりに個性が強く、自分の設立した会社を追い出された。その後のアップルが低迷したことから分かるように、個性が強いからこそ、商品に熱い思いがあるのであり、その個性をつぶすことが一番怖いことである。ジョブズの商品に対する要求は決して揺らぐこともなく、また多数決などとらなかった。

多数決では新規事業は育たない

 筆者が長く過ごしたソニーも、井深大さん、盛田昭夫さん、大賀典雄さんの創業者世代は常に商品へのこだわりが強く、一度決めたら必ずやり抜く強さがあった。こうした経営者に先導される形で、社員も揺らぐことなくまい進できたことが、かつてのソニーを成長させた要因だと思う。

 創業者は、常に「この商品を作るには誰と誰がいれば出来る」と、その人物の性格など全く気にせず、チームを結成し、そこに多数決など入れることもなかった。多数決で決めたもので新規事業が育つことはない。

 個性を大事にし、それを人・物・金の面から最大限サポートすることが大切である。著しく衰退している日本の家電業界で、経営者の最も大きな問題は、商品性を見抜く力の欠如、チームの和を重要視するあまり、特徴ある商品を育てることをしないこと、構造改革の名のもと、目先の利益のみを追い、結果駄目であればすぐに諦め、せっかく長い時間をかけて育った人や技術を含めた資産をいとも簡単に捨て去ることだと思う。

 加えて、社員ももっと商品に真正面からぶつかる努力をすべきだと思う。このところ、筆者が驚くとともに疑問に感じていたことは、30歳前後の若い技術者が「自分達のグループがどのくらい会社に貢献しているのか? どのくらい利益が出ているのか?」ということを、もっともらしく言っていることである。そんなことを考えるよりも先に、もっと商品にこだわりを持つことである。これも、経営者次第ということだろう。

 最近、ある家電メーカーの経営陣の一人と話す機会があった。私がある商品の提案をしたところ、「あれは多数決で反対されたから」という答えが返ってきた。これでは個性を生かすことは出来ないであろうし、今の凋落もこうしたことが大きな原因の一つではないかと思う。

 日本の家電ができることはまだ沢山ある。ソニーやパナソニックは、テレビ事業の縮小を発表した。しかし、テレビは未だAppleでさえ成功できていないジャンルであり、本来チャンスがあると思う。ジョブズもテレビのアイデアがあると言い残しており、これにチャレンジするくらいの個性が日本から出てきてほしい。
 

◆WEDGE2011年12月号より


 




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