世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年7月25日

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 米国防総省は7月8日、台湾への約22億ドル(約2400億円)相当の武器売却を承認したことを発表、議会に対し、その旨通知した。今回の売却は、6月に既に報じられ、台湾国防部も手続きが粛々と進められていることを認めていた。

CanadaFirst/VlatkoRadovic

 台湾に売却される武器としては、ゼネラル・ダイナミクス社製のM1A2Tエイブラムス戦車108両や携帯型地対空ミサイル「スティンガー」250発などが予定されている。これらは、一見して分かる通り、台湾に上陸侵攻して来る勢力に対抗するための武器である。米国防総省は、今回の武器売却について、地域の軍事バランスを変えるものではない、と言っているが、基本的にその通りであろう。他方、米国が台湾の防衛能力向上へのコミットメントをしっかり果たしていることも間違いない。

 今回の武器売却について、台湾の総統府は、張惇涵・総統府報道官の名前で、米政府に感謝する声明を発表している。声明は、まず、米国政府が、台湾関係法と「6つの保証」における米国のコミットメントを具体的な行動を通じて尊重し、台湾の自衛能力強化を支援し続けてくれていることに心底より(sincere)感謝する、としている。声明は、台湾自身の立場について、インド太平洋の責任あるメンバーとして、台湾は国防への投資を加速し、米国および志を同じくする他の国々との安全保障パートナーシップを強化し、もって、地域の安全と安定を守り、台湾の自由と民主主義の価値を守る、としている。この声明は、最近の台湾の安全保障戦略を端的に説明している。すなわち、台湾は自らを米国のインド太平洋戦略の不可欠な一部として位置付けることで、米国の関与を確かなものにしようとしている。また、台湾の自由と民主主義の価値を守るべしというのも、蔡英文政権が最近とりわけ強調するようになっている点である。

 中国政府は6月に報道がなされて以来、当然ながら反発を強めてきた。中国外交部の耿爽報道官は、7月12日の声明で、台湾に武器を売却する米企業への制裁を示唆し、7月15日の定例記者会見では、「中国の国益を守るために、台湾への武器売却に参加する米企業には制裁を科する。中国政府、中国企業は、当該米企業とは協力や商業的交流をやめる」と明言している。制裁といっても、資産を凍結するなどといったものではない。そんなことをすれば、米国から深刻な報復がなされることは間違いない。「制裁」は、国内向けのポーズの側面が強いと思われる。米国としては、台湾関係法、6つの保証、さらに、最近制定された、アジア再保証イニシアチヴ法(ARIA)や国防権限法2019などに基づき台湾防衛へのコミットメントを引き続き果たしてくことになろう。中国側に大きく凌駕されてしまっている台湾の空軍力、特に4.5世代戦闘機をどのように支援するか、今後の大きな課題になると思われる。

 なお、中国の対応ぶりは、台湾の総統選挙にも影響を与え得る。蔡英文総統は長らく低支持率に苦しめられ、一時は民進党の予備選で敗退する可能性すら高まった。しかし、2019年1月2日に習近平が台湾に関する演説で「一国二制度での統一を目指す。台湾統一には武力行使も辞さない」などと述べて以来、蔡英文は中国に対する姿勢をより強いものに変え、それが支持率の急速な回復につながっている。今回の武器売却に中国が批判を強めていることに、理性的で沈着なイメージの強い蔡総統が「余計なことを言うな」と珍しく荒い表現で反発したのが印象的である。7月15日に国民党の予備選の結果が発表され、公認候補が高雄市長の韓国瑜に決まったが、彼は親中的な人物とみなされている。より親中的であった郭台銘(鴻海精密工業の創業者)は、予備選で大敗を喫した。中国が台湾への威嚇を強め、米台関係の強化に文句を言えば言うほど、蔡氏への追い風となり得る。米国との関係強化も、蔡氏の総統としての実績となる。

  
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