上海に住んでいる長男夫婦に4人目の赤ちゃんが生まれた。イクメン(育児に熱心なパパ)の長男は、日本製の粉ミルクと高級紙おむつと離乳食を大量に買い込んでは上海に運んでいる。上の2人は例の「三鹿印の粉ミルク」で育てたために「食の安全」を大変気にしている。三鹿集団の粉ミルクは、タンパク質を増量させるためにメラミンを混入し、5万人の乳児が健康被害を起こしたのはまだ記憶に新しい。
また、中国では乳牛の成長を早めるホルモン剤を子牛に投与するので粉ミルクにも影響があるらしく、これを飲んだ児童は異常発育して小学校の低学年の女の子に初潮がはじまるケースもあるらしい。このような健康被害を回避するために、上海のお金持ちの間では乳母を雇い入れることが流行っており、農村から来た若い乳母の月給が1万元(約12万円)以上もするという。
上海に住んでいる日本人は大体において家事や育児を助けてくれる「阿姨(アイ)さん」と呼ばれるお手伝いさんを雇っている。中国では共稼ぎが当たり前で、3カ月ぐらいの育児休暇が終われば職場に戻るのが普通だから、その後は「阿姨さん」が子育てをするのである。赤ちゃんは「阿姨さん」に懐いて、母親の顔を見ても反応しないという笑えない話もある。上海の5歳の孫は「阿姨さん」が安徽省の人だったので、とうとう安徽訛りの中国語をしゃべるようになってしまった。外地で4人の育児は大変だろうと思うが、上海生活は意外に便利でストレスも少なく、さらに5人目に挑戦すると言っている。
一方、私の会社の社員で日本暮らしが10年以上になるウイグル人(中国国籍)のミリアリさんは、妻のマイラさんとの間に2人目の男の赤ちゃんが生まれた。1人目の時にはウルムチからマイラさんのご両親が来られたので随分と助かったと言っていた。中国社会は男系社会で夫の両親が面倒を見るのが一般的だが、妻の両親が面倒を見る時には「お礼」を渡さなければいけないという。お金にシビアーな中国らしい話であるが、妻にとっては自分の両親が来てくれた方が気は楽である。
ところが、2人目の赤ちゃんには両親は来てくれなかったので、マイラさんはミリアリさんに育児と家事を頼むことになった。中国では男女平等だから、ミリアリさんは会社の仕事と、育児や家事を両立しなければならないが、子どもが病気をすると病院通いのために会社を休まなければならない。ウィークデイも早く帰って買い物や家事一切は夫の役割である。そうこうしているうちに会社の仕事が上手く行かず、上司との間で言い争いが絶えなくなってきた。
ミリアリさんは、家ではイクメンの優等生を、会社では猛烈サラリーマンを演じたが、赤ちゃんが病気がちということもあり、育児と仕事が両立しなくなってきた。私は、しばらく海外出張を自粛して上司とコミュニケーションを取るようにアドバイスをしたが、ミリアリさんは、お客さんのアテンド、通訳などで海外出張の仕事もこなした。ところが、無理がたたったのかミリアリさんは健康を損ねて、とうとう人事異動をせざるを得なくなった。ミリアリさんの真面目さが裏目に出た格好だ。
日本と中国の文化の差と言えばそれまでだが、東京の生活は近所付き合いも希薄で相談する人も居なくなると余計にストレスが掛かるのだろう。中国社会は、男女平等で共稼ぎが当たり前だから、夫も妻も家事と育児は共同作業である。しかし、中国人夫婦が日本で生活をする場合、心身共に日本人男性のように振る舞わないと日本社会に馴染めないのだ。逆に日本人が中国で生活する場合は「阿姨さん」の存在や周りの協力もあって肉体的にも精神的にもストレスは半減する。日本社会よりも助け合いの心が発達しているように思う。
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