Wedge REPORT

2019年8月20日

»著者プロフィール
閉じる

菅野久美子 (かんの・くみこ)

フリーライター

1982年宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社の編集者を経て、2005年よりフリーライターに。また、東洋経済オンライン、現代ビジネス等のウェブ媒体で、孤独死や男女の性にまつわる多数の記事を執筆している。

 年間3万人といわれる孤独死。

  千葉県某所の2階建てアパートの角部屋─。このワンルームアパートの一室で、70代の男性は布団の上でぐったりと息絶えていた。遺体は、死後1カ月以上が経過。男性の息子は、あまりの腐敗臭にアパートの玄関に近づくことさえできなかったという。

(EMILY DELTETTO/EYEEM/GETTYIMAGES)

 すさまじい死臭と熱気が支配する室内に、防護服と防毒マスクをした特殊清掃業者が一歩一歩と足を踏み入れようとしていた。見ると壁には、おむつが山積みになり、むわっとするようなアンモニア臭を放っている。壁には引っ越した際の段ボールが山積みになっており、アパートの雨戸は何年も閉め切られ、閉ざされていた。

 床には蛆(うじ)がはい回り、蠅が突進してきた。室内は40度を下らない温度で、5分もしないうちに滝のような汗が流れてくる。エアコンを見ると何年も使用した形跡はなく、ホコリをかぶっていた。

妻が介護施設に入り
一人残された夫

 男性は、かつては妻と2人で長年慣れ親しんだ一戸建てで暮らしていた。しかし、定年後しばらくすると、妻が認知症を患い介護施設に入所。子供もすでに成人して家を離れていることもあって、それまで住んでいた一戸建てを売却し、駅に近いこのアパートに入居した。

 しかし、妻と離れた喪失感は大きく、徐々に男性の心身を蝕(むしば)んでいったのだった。

 身の回りのことが億劫(おっくう)になり、次第におむつで排尿や排便をするようになり、カップラーメンばかり食べる不摂生な食生活へと変貌していく。

 死因は腐敗がひどく特定できなかったが、この暑さと不衛生な部屋の状態が影響していることは明らかだった。

 この男性のように配偶者との死別や別居、離婚などによって、それまでの生活が一気に崩れ落ちて生活が崩壊し、その結果、孤独死するという例は決して少なくない。むしろ、ありふれた典型的な孤独死の一例だと言えるだろう。

 長年孤独死の取材を続けてきた私の試算によると、その8割を占めるのが、ゴミ屋敷などのセルフネグレクト(自己放任)だ。セルフネグレクトとは、別名、緩やかな自殺とも呼ばれている。暴飲暴食や、医療の拒否、異常な数のペットの多頭飼いなどの状態のことで、自らを死に追いやるような行為のことを指す。セルフネグレクトに陥るきっかけは、人によって千差万別だ。しかし、高齢の男性の場合は特に妻との離別や死別などのショックで一気に転落してしまうというケースがあとを絶たない。

関連記事

新着記事

»もっと見る