食の安全 常識・非常識

2019年9月6日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

(写真提供:筆者、以下同)

 豚コレラが発生してからもうすぐ1年。流行拡大は止まりません。

 昨年9月9月、岐阜県の養豚農場で確認されたのを皮切りに愛知県、三重県、福井県など計39農場・研究所で感染が確認され、関連農場等も含め1府6県で豚13万頭あまりが処分されています(9月3日現在)。

 豚コレラはウイルスが原因となる感染症です。治療法がないため、感染が見つかると豚を殺処分して感染の広がりを食い止めるしかありません。

 殺処分は確実に実行されています。しかし、当初は岐阜県内にとどまっていたのが愛知県へ広がり、今年7月に入って三重県、福井県へも拡大しました。万全の防御をしていたはずの愛知県総合農業試験場でも8月、感染が確認され、「全国に広がるのではないか」と養豚関係者の不安は高まっています。

 どうして、感染拡大を食い止められないのか? この先、日本の養豚はどうなるのか? 

 豚コレラは人には感染せず、仮に感染した豚やイノシシの肉や内臓を食べても人の健康には影響がありません。そのせいか、一般の人たちの関心を引かないのが実情です。でも、これは日本の食の大きな“危機”。そのことにまだ、多くの人が気付いていません。詳しく解説します。

輸入食品からウイルスが広がった?

 まず、豚コレラが急に流行し出した経緯を説明しましょう。

 豚コレラは日本では以前、一般的な豚の病気として存在していました。豚やイノシシが豚コレラウイルスに感染すると発熱や食欲不振などとなり、死亡する場合もあります。ウイルスは、豚やイノシシの体内で増え、唾液や糞尿に大量のウイルスが含まれ、排出され広がります。ほかの生物は、ウイルスに感染増殖することはない、と考えられています。

 ごく普通の豚の病気だった豚コレラ。しかし、国産ですぐれたワクチンが開発され豚への接種が始まり、1992年を最後に根絶しました。ワクチン接種も次第に減らし2006年には全面中止。07年に、国際獣疫事務局(OIE)に「清浄国」として報告しています。ワクチン接種というのは、ウイルスから作った弱毒化した抗原の投与なので、病気の根絶だけでなくワクチンも止めなければ、清浄国にはなれないのです。

 ところが26年ぶりに昨年9月、豚コレラが発生しました。現在流行している豚コレラは、遺伝子型が国内で昔流行したものとは異なり、中国やその周辺国から持ち込まれたウイルスによるもの、と考えられています。

 農水省が専門家を集めて設置した「拡大豚コレラ疫学調査チーム」が、28例目までの感染を詳しく解析して「中間とりまとめ」として公表し、推測しています。そこで示された可能性の高い感染拡大ルートは次の通りです。

 (1)豚コレラのウイルスが付いた肉や加工品が、輸入検疫をすり抜けて持ち込まれ、食べた残りなどが廃棄された、(2)野生のイノシシがそれらを食べ、ウイルスに感染、(3)イノシシの体内でウイルス増殖し、ほかの野生イノシシにも感染、 (4)感染イノシシが農場に入り込み豚と接触し感染、(5)あるいは、ネズミや猫などの野生動物によりウイルスが農場に持ち込まれ豚が感染、(6)あるいは、人や車などによりウイルスが農場に持ち込まれ豚が感染、(7)あるいは、豚の移動により、農場から農場へ感染。

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