食の安全 常識・非常識

2019年9月6日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

養豚農家が「頑張っても、防げなかった」

 愛知県田原市の養豚農家、鈴木瑛策さんに聞きました。鈴木さんは、養豚団地で豚を肥育していました。養豚団地というのは、養豚農家が複数集まって豚舎を並べ、それぞれ、農場を経営する形態。団地にすると、糞尿を処理する堆肥場や事務所等を共用できるなどのメリットがあります。

愛知県田原市の養豚農家、鈴木瑛策さんは27歳。「豚が大好きで、親の仕事を継いだのに、殺処分しなければならず、つらかった」と話す

 鈴木さんの農場では、ウイルス感染を防いでいました。周辺には野生イノシシは見かけず、団地の他の農場と共に万全の対策を講じているはずでした。ところが2月、団地内の別農場が陽性に。施設や道路の一部などを共用しているために、「団地内は、すでに感染している可能性がある」として、団地の16農場すべての豚が殺処分となりました。

 鈴木さんは「陽性となった農場は感染防止にもっとも頑張っており、衛生レベルはとても高かった。あそこが入られたのなら、もうどうしようもない、という気持ちだった」と言います。とはいえ、自分の農場の豚はまだ感染していなかったのです。「なぜ、豚を殺さなければならないのか?」。いまだに、殺処分で苦しむ豚の姿が目に浮かぶそうです。農水省の拡大豚コレラ疫学調査チームは、カラスやイタチ等の野生動物や車などを介してウイルスが侵入した可能性がある、とみています。

ウイルスの蛇口を閉められない状態

 8月に発生がわかった愛知県農業総合試験場も、できうる限りの防御をしていたはずが、感染しました。拡大豚コレラ疫学調査チームは、車や靴などを介してウイルスが豚舎に侵入した可能性を指摘しています。

 養豚農家だけでなく、指導的立場の県施設でさえもがウイルスを防ぎきれない現実。拡大豚コレラ疫学調査チームメンバーの獣医師、伊藤さんは、「豚コレラウイルスは、10個あれば感染の可能性があり、100個あれば確実に感染すると考えられており、感染力が非常に強い。野生イノシシというウイルスの蛇口を閉められない状態なので、農家の努力にも限界がある。このまま、感染と殺処分が続くのは、養豚農家にあまりにも酷な話であり、動物福祉の観点からも問題があるのではないか」とみています。

自治体が消毒場を設置しており、車を消毒する(愛知県田原市で)
消毒用の消石灰で真っ白になった養豚農場。部外者が勝手に近づかないように道に立ち入り禁止の札も下げられている。農家はさまざまな対策を講じているのだが……

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