また、今回PCR検査がなかなか受けられないという事態が発生したが、提言には「各国のサーベイランスの仕組みを参考にしつつ(中略)体制を強化すべきである。とりわけ、地方衛生研究所のPCRを含めた検査体制などについて強化」する必要性が指摘されている。
海外情報を含めた感染症の情報収集や情報発信機能の抜本的向上や、広報・リスクコミュニケーションを専門に行う組織の必要性にも言及している。
中国・武漢で怪しげな病が発症していると現地のSNSが伝え始めたのは昨年11月。12月には地元の医師が、やはりSNSで発信を始めていた。日本の情報収集能力、時にSNSへの感度の低さは先のダイヤモンド・プリンセス号でも明らか。ある意味、最先端の情報がSNSでもたらされる現在、この対応の低さはすべての初動を遅らせる。国益に適(かな)う国々のSNSを含めた情報収集、監視する情報組織の設立は急務と思われる。
邦人救出における
成果と課題
ダイヤモンド・プリンセス号にばかり目がいってしまい、われわれはあるクルーズ船の存在を視界の外に置いてしまった。その船の名は「ウエステルダム号」。香港を出航後、船内に感染者がいる恐れがあるため、日本、タイでの寄港を拒否され、一時、乗客2257人とともに漂流船となったクルーズ船だ。乗客の中に5人の日本人が乗船していた。邦人救出という観点からするならば、どんな方法を使おうと救出すべきではなかったか。明らかにこの5人は一時、日本政府から〝見捨てられた日本人〟だった。
1月、邦人救出のため、中国・武漢に向かったのは民間航空会社の2機だった。当初、政府専用機を飛ばすという案も出ていたが収容できる人数が多いという観点から民間機が選ばれた。他国に邦人救出を依頼していた時代から比べれば進歩なのだが、やはり他国が武漢に向かわせたのは、軍用機が大半だった。
たしかに、中国と日本との間に横たわる歴史認識などの感情的な問題があるとはいえ、邦人救出が安全保障に関わる重要なファクターである以上、やはり自衛隊の役割は大きい。自衛隊も空中給油・輸送機としてボーイング767を4機所有している。給油機にしろ、輸送機にしろ機体はガランドウ、多くの人員を輸送できる。ちなみに、ダイヤモンド・プリンセス号から自国民を母国に運んだ米国にしろ、ロシアにしろすべて軍用機であった。機内では、完全な防護服を身につけた軍関係者が救出民の対応をしていた。異様な光景だが、これが現実の世界なのだ。
硬直した霞が関の縦割りを乗り越える政治家の危機対応能力、それを結集する組織、そして圧倒的な指導力が待たれてならない。(文中敬称略)
■新型コロナの教訓 次なる強敵「疾病X」に備える
Part 1 「コロナ後」の世界秩序 加速するリベラルの後退
Part 2 生かされなかった教訓 危機対応の拙さは必然だった
Interview 「疾病X」に備えた日本版CDCの創設を急げ
Interview 外出禁止令は現行法では困難 最後の切り札は「公共の福祉」
Part 3 危機において試されるリーダーの「決断力」と「発信力」
Chronology 繰り返し人類を襲った感染症の歴史
Column1 世界のリーダーはどう危機を発信したか?
Part 4 オンライン診療は普及するのか 遅きに失した規制緩和
Column2 露呈したBCPの弱点 長期化リスクへの対策は?
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