あの負けがあってこそ

2015年1月26日

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 高鍋進をイメージするとき、最初に思い浮かんだ言葉は「静謐」であった。涼しげな眼差しと深沈たる物腰が相まっているからだが、高次の精神がせめぎ合う試合では、形容する言葉が見つからない程の凄烈さが迸る。

(画像:Digital Vision)

 全日本剣道選手権に出場するような高段者は皆謙虚で所作が美しい。試合後、正座して面を取り互いに礼をする姿からは、どちらが勝者でどちらが敗者か見分けることはできない。勝っても負けても泰然自若とする姿があるだけだ。たとえ日本一になろうとも、勝者によるガッポーズを見ることはない。「相手の人格を尊重し、心豊かな人間の育成のために礼法を重んずる」剣道ならではの潔さなのではないだろうか。

 2011年全日本剣道選手権大会で史上二人目の連覇を達成した直後の高鍋も、そんな清々しさに包まれていた。

 以前放映された某テレビ番組では、高鍋が面打ちの動作に入ってから面を決めるまでの時間は0.10秒と計測されていた。

 毎年11月3日に日本武道館で行われる全日本剣道選手権大会に出場する選手たちの竹刀の動きは、常人が目視できる限界を超えたスピードである。「面」の相打ちなのか、それとも「面」と「小手」が交錯したものなのか見分けることは難しい。「胴」と「突き」はあきらかに動作が異なるために常人にも技として捉えることができるが、それでも相打ちの場 合は、どちらが先に決めたのかは審判の旗の色にゆだねるしかない。

 筆者の動体視力がひどく鈍いなら話は別だが、剣道とはそういう世界なのだと認識していただきたい。

 ちなみに日本剣道連盟のホームページを見ると2011年3月現在で有段者登録者数は1,619,859人(内、女子は460,624人)と記されている。有段者の登録数だけでもこれほど大人数なのだから、小・中学生等の剣士を含めればどれほどの競技者がいるのだろう。派手さはないが、剣道の母国だけに年齢や性別を問わず、広く愛されている競技だということがわかる。

世界選手権の団体戦で初めて日本が負けた

 高鍋進、1976年熊本県生まれ。

 「負けたことは星の数ほどありますが競技人生で最大の負けと言えるのは、2006年に台湾で行われた第13回世界剣道選手権大会(以下、世界選手権)になります。私は団体戦の準決勝アメリカ戦に次鋒で出場して、ダニエル・ヤン選手に2本負けしたのです。その流れを引きずり、日本はアメリカに3-2で負けてしまいました。世界選手権の団体戦で初めて日本が負けた試合でした」

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