2024年5月11日(土)

WEDGE REPORT

2020年4月21日

ワクチン開発で儲けるためにウイルス製造

 ハニティ氏ら親トランプ派の主張の根底には、トランプ大統領は国家を操ろうとしている「ディープステイト」(影の政府)と真っ向から戦っているという“信念”のようなものがある。影の政府とは彼らからすれば、オバマ前大統領ら民主党リベラル派の支配層、つまりは米国の政治を牛耳っている対抗勢力のことである。

 そうしたディープステイト敵視派が最近標的にしているのがマイクロソフトの創業者で、慈善家のビル・ゲイツ氏だ。ゲイツ氏は経済誌フォーブスによると、世界第2位の資産家で、その資産は980億ドルにも達する。ゲイツ氏を貶めるためのフェイクニュースが最初にネット上に掲載されたのは1月21日のことだ。作成したのは陰謀論グループQAnonの関係者だとされる。

 YouTubeに掲載された内容はゲイツ氏がコロナ・パンデミックを予知していたというものだった。ゲイツ氏は2015年、「人類最大のリスクは核戦争ではく、数百万人の生命を奪う伝染ウイルスだ」と演説していたが、これがコロナウイルスのまん延を知っていた証拠だとされた上、同氏がワクチンで儲けるためにウイルスを作り、それは世界の人口を削減するためでもあったとのフェイクニュースが拡散した。

 この演説の動画は数週間で2500万回も視聴されたという。米紙によると、このフェイクニュースに飛びついたのが親トランプ派のQAnonに加え、反ワクチン主義者や右派の論客たちだった。FOXニュースの保守派のコメンテーター、ローラ・イングラハム氏はゲイツ氏をめぐる陰謀論に“いいね”のツイートをしたが、これは1つの例だ。ゲイツ氏に対するこうした攻撃は大統領選挙を前にした親トランプ派、反トランプ派の対立構図の中で起きており、そのまま社会の分断を反映するものだろう。

 ゲイツ氏はテレビ出演や米紙への寄稿で、コロナウイルス感染拡大を防止するため自宅待機や検査の拡充、ワクチン開発などを呼び掛け、世界保健機関(WHO)への拠出停止などのトランプ大統領の政策を批判している。これが親トランプ派の琴線に触れたのは間違いないところだ。ゲイツ氏の慈善団体はWHOの予算の約10%を献金している。

  
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