2024年4月27日(土)

中島厚志が読み解く「激動の経済」

2012年6月26日

 経済格差が大きい国々でユーロ圏を構成した以上、ユーロ圏は、経済格差を埋めるマネーの動きがなければ、域内経済は回らず、崩壊する運命を発足当初から背負っているからだ。

 日本では、経済力のある東京のおカネが交付税交付金などとして相対的に経済力の劣る地域に回っている。しかし、我々はこのことを当然視し、問題になどしない。同じ国である以上、おカネが地域間で生じる経済格差や資金の過不足を埋めるために国内を巡ることは当たり前だからだ。

 いま、ユーロ圏で問われているのも同じことだ。欧州はひとつとの理念で経済統合をし、通貨統合をした以上、自国のおカネが域内他国に回るのを拒否してはユーロ圏は成り立たない。

 だから、ギリシャやスペインに巨額の金融支援をするかどうかは、ドイツの国民がしぶしぶ受け入れることではなく、当然の責任で拒否権などない。いくらドイツの人々から見てギリシャの人々が怠け者に見えようとも、スペインの銀行不良債権がスペイン人のあまりに投機的過ぎた住宅ブームの結果であり、自業自得だと冷やかに見ようとも、ドイツはギリシャやスペインに金融支援しなければならない。それがユーロ圏に加盟するかぎり、ドイツの責務だからだ。

 いまや、ギリシャ・スペイン問題はドイツ問題になりはじめている。ドイツの人々が域内債務国支援を当然と自覚しなければ、ユーロ圏は仕組みとして成り立たない。今後のドイツの振る舞い次第が、ギリシャのユーロ圏離脱どころかユーロ圏をも解体させかねないのだ。

ユーロ圏崩壊を防ぐ唯一の選択肢――財政統合

 このユーロ圏全体の根本問題がよい形で解決されるには、財政統合を急ぐしかない。金融支援の一つ一つにドイツの人々をも納得させる理屈づけが必要なようでは、ユーロ圏はいつまでも不安定だ。ここまで危機が深刻化しては、一刻も早くユーロ圏が通貨も財政も一体の枠組みとして出来上がるしかない。

 少し前、ギリシャの債務危機が深刻化したとき、いくつかある対策の選択肢の中のベストシナリオとして、財政統合が唱えられた。ただし、当時の財政統合は、ギリシャ問題を一気に解消させるばかりか、ユーロ圏が発足当初から抱えている課題までも消す究極の選択肢だが、当面実現が期待できない夢のシナリオとして語られた面が強かった。

 いまでは、財政統合がユーロ圏を崩壊させないための唯一の選択肢になりつつある。ユーロ圏問題はいよいよ核心に迫りつつあり、ギリシャが当面ユーロ圏に残っても、今後ドイツの覚悟を見定め、ユーロ圏での財政統合が視野に入るまで市場の動揺は続くことになろう。


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