WEDGE REPORT

2012年7月24日

厚生労働省が画期的な報告書を出した。
「認知症になっても本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指す、とある。
誰しもが家族の介護や自身の老後で認知症を意識する時代になった。
しかし、症状が悪化すれば、精神科病院に長期入院することになるのが現在の体制だ。
経営に直結する病床削減に精神科病院は抵抗している。国民の意思が問われる。

夫を入院させた女性の後悔

 「この2つの写真、表情がまったく違うでしょう?」。カメラに向けた人懐こい笑顔と、眉間に皺を寄せ今にも怒り出しそうな面持ち。東京都内に住むAさんは、精神科病院に入院したアルツハイマー病の夫が、入院の前後で見せたあまりの変化に心を痛めた。ショートステイで利用した介護施設で、「もう、うちでは面倒みられません」と言われた末の入院だった。近くの利用者に手を上げたり、夜中にベランダに出てズボンを下げたりといった行動が問題になったのだ。

 病院は丁寧に選んだが、見学でわかる外面と実態は違った。夫は、外が見えない半地下の部屋で、壁とテーブルに挟まれて動かせない車椅子に座らされていた。食事の時間になると、半円形のテーブルに並べられ、介助者が端から順に食べ物を口に入れる。「我が家では一家の主なのに」(Aさん)。

 訪問診療を手がける病院を見つけた。いざと言う時は、救急隊にその病院の名前を言えば、必ず受け入れてくれるという。Aさんは思い切って在宅介護を再開。それからの7年間、一緒に自宅で暮らした。

 自宅に戻ってからの写真を見ると、穏やかな表情だった。「一家の大黒柱は寝ているだけでも大黒柱。私が夫を支えたというより、私が夫に支えられていたことに気づかされました」。そう語るAさんは、部屋の片隅に置かれた骨壷に目をやった。「私、夫と一緒にお墓に入りたいんです」。

厚労省の画期的な報告書

 6月18日、厚生労働省が「今後の認知症施策の方向性について」という報告書を発表した。題名は地味だが、内容は画期的だ。曰く、認知症の人は精神科病院や施設を利用せざるを得ないという考え方を改める。これまでの「自宅→グループホーム→施設あるいは一般病院・精神科病院」という、ケアの不適切な流れを変える。役所が拘る「無謬性」すら否定しているように見える。

 1980年代に社会問題化した「寝たきり老人問題」は、90年のゴールドプランを皮切りに、10年越しで結実した介護保険制度により少しずつ改善されている。しかし、介護保険は身体ケアが主で、認知症の取り組みは遅れた。認知症対応型グループホームの整備が始まったのが2000年。それからやはり10年越しで、今回の報告書に至ったということになる。

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