2024年5月4日(土)

Wedge REPORT

2020年12月4日

 二つ目の事情は、高騰する電気料金である。震災後、菅直人首相(当時)の要請により中部電力の浜岡原発が停止されたことを受け、全電力会社の原発稼働が事実上できなくなった。失われた供給力を補うため、各電力会社は緊急用の石油火力などの高コストの電源をフル稼働させたため、電気料金が高騰した。その結果、「安いシェールガスを輸入しろ」「メタンハイドレートはどうだ」などさまざまな議論がなされる中で、「電力事業を自由化し、競争環境におけば電気料金が下がるのではないか」という期待が高まった。

 そこに加わる三つ目の事情は、経済産業省と東電の長年にわたる確執である。筆者がヒアリングした電力会社および霞が関関係者の話を総合すると、東電は良くも悪くも日本のエネルギー政策を主導してきた歴史があり、一方でイニシアチブを発揮できなかった経産省は苦々しい思いをしていた。そこに登場した〝ゾンビ化〟した東電は、経産省が主導権を握る千載一遇のチャンスとなった。つまり、東電を解体・弱体化し、経産省が電力政策の主導権を握ることが電力システム改革を推進する動機になったということである。

 三つの事情を踏まえ実現できそうなものとして、当時欧米で先んじて実施されていた「電力の自由化」がやり玉にあがった。約半年間の専門委員会での検討の後、安倍晋三政権(当時)に政策は継承される。最終的に13年4月に閣議決定された「電力システム改革に関する改革方針」では、その目的として「安定供給を確保する」「電気料金を最大限抑制する」「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する」の三つが掲げられることとなった。

自由化がもたらした
電力供給「責任者」の不在

 それから約8年。実際に施行されてきた政策を見る限り、これらの目的の扱いは後回しにされるか中途半端にしか達成できていない。多くの人は、自由化ですべての電力会社が分社化されたと思っているようだが、実際に旧一般電気事業者(東電や関西電力など地域電力10社)の中で分社化されたのは送配電事業のみで(沖縄電力を除く)、発電部門と小売り部門を分社化したのは東電と中電のみである。それ以外の事業者は、発電と小売りは一体のままで、分社化した送配電事業も従来通り地域独占でほとんど変わらない。

 本当に「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大する」ことが重要で、自由化による公平な競争を促進するのであれば、発電部門と小売り部門の何らかの分離(会計分離、あるいは情報開示等)が施行されてしかるべきだろう。実際、電力自由化によって参入した「新電力」の各社からは、現状はいまだ不公平であるという声がある。

 話がややこしいのは、東電と中電が、それぞれの主力の火力発電部門を統合し、JERA(ジェラ)を設立したことだ。JERAは国内の発電容量の3割をもつ世界有数の巨大な発電事業者となり、電力市場を左右し得る存在として大きく「君臨」している。このことも、発電の全面自由化で競争を促すという趣旨と合致しているとは思えない。

 そして「自由化」がもたらした最大の変化とは、従来「地域独占」と表裏一体だった管轄エリアでの電力供給責任の解除である。実は、現在の電力システムにおいて、電力供給の最終責任者はエネルギー政策基本法上も存在せず、個々の発電事業者は日本全体の需要を満たすための設備投資を行う義務はない。建前上は、市場メカニズムを通じて、短期的、中長期的に需給バランスが調整されることで供給責任が自然に果たされることになっている。これが自由化の本質である。

 しかし、中途半端な改革によって中長期の調整メカニズムは不在の状態だった。つまり、現在までの安定供給は電力会社の〝矜持〟によって成り立ってきたと言っても過言ではあるまい。


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