尖閣衝突 どこでボタンを掛け違えたのか
日中交渉の舞台裏【後篇】


城山英巳 (しろやま・ひでみ)  時事通信北京特派員

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了、現在、同大学院博士後期課程在籍中。著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

»最新記事一覧へ

*前篇はこちら

官邸に伝達された「対日3条件」

 中国政府は「幻想を捨て深く反省し、実際の行動で誤った決定を正せ」(張志軍外交部常務副部長)と繰り返している。表向きは国有化撤回を求めながら、野田政権が国有化を取り消すことはないと熟知している。中国の真の狙いは次の3点だろう。

(1)「日中間に領土問題は存在しない」と言い続ける日本政府に領土問題(争い)の存在を認めさせる。
(2)1972年の国交正常化時に田中角栄首相と周恩来首相の間で共有したと主張している尖閣諸島「棚上げ論」を確認させる。
(3)日本側との対話を通じて尖閣諸島の現状維持を推進する。

 この際、筆者が前回本コラムで詳述した「対日3条件」がカギとなる。中国政府は、日本側に尖閣諸島をめぐり(1)上陸させない(2)(建造物を造るなど)開発しない(3)(資源・海洋)調査を行わない――を挙げ、3条件を守るよう求めた。実は、この3条件は、中国外交部幹部から官邸に伝達されている。中国政府が官邸に伝えたメッセージは、石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島を購入すれば現状維持は困難になり、日中関係は最悪の状態に陥ると警告していた。

 ある共産党の対日当局者も野田政権の国有化決定前、「国有化してもいい。しかしその際は中国側と十分に話し合ってほしい」と明かした。

現状維持の話し合いには応じず

 日本政府の本音も「現状維持」にあるのは間違いないが、「中国と条件闘争するつもりはない」(日本外交筋)と一貫して突っぱねた。日本政府が繰り返す尖閣諸島の「平穏かつ安定的な維持管理」の具体的中身についても日本政府が決めることであり、3条件などあくまで中国側の独自の論理だとの立場を崩さなかった。

 しかし「日本政府が国有化した際に、日本側が中国側と現状維持について何か取り決めていれば、中国がこんなに強硬になることはなかった」と複数の日中関係筋は解説した。

 日本側にもさまざまなルートを通じて「石原が買うより国有化のほうがいい」という情報が中国側から入っていた。しかし日本側が領土問題や棚上げ論も認めず、現状維持に関する中国側の要求にも応じない中、中国共産党・政府も振り上げた拳を下ろすわけにはいかないのである。

1
nextpage
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「チャイナ・ウォッチャーの視点」

著者

城山英巳(しろやま・ひでみ)

時事通信北京特派員

1969年生まれ、慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社入社。社会部、外信部を経て2002年6月から07年10月まで中国総局(北京)特派員。 外信部を経て11年8月から北京特派員。11年、早稲田大学大学院修士課程修了、現在、同大学院博士後期課程在籍中。著書に『中国臓器市場』(新潮社)、 『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書、「第22回アジア・太平洋賞」特別賞受賞)、『中国人一億人電脳調査』(文春新書)がある。14年に戦後日中外交史スクープで13年度「ボーン・上田記念国際記者賞」を受賞。

WEDGE Infinity S
ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍