2024年4月27日(土)

日本の漁業は崖っぷち

2012年10月19日

漁獲枠を設ける意味がない日本

 (図1)では2隻の探索船の情報が出ていますが、このような情報が24時間更新されていきます。必要に応じて、漁船の協力を得てより広範囲を短期間で調査することも可能です。資源管理がしっかりしている国では、調査に協力することで漁獲枠をもらえれば、漁業者側としては、漁獲量が厳格に決まっているため、それはお金と同じで価値になるのです。

 日本のように、もともとどれだけ獲れるのか分からないのに、漁獲枠を調査費としてもらっても、枠自体に価値があるのかないのかは、よく分かりません。マイワシとスケトウダラのTAC(漁獲可能量)が11月上旬に行われる水産政策審議会で、資源の再評価の結果を受けて、期中改定が行われ、各28%と33%増枠する見通しです。これでは、入札する人も、漁業者も、途中で水揚げされる数量の前提が変わってしまうことになりますので、真剣にTAC(漁獲可能量)の価値を考えて漁獲したり、入札したりなどできないのです。その年のTAC(漁獲可能量)の増減が、魚価や買付相場に決定的に影響する世界の水産業界では、考えられないことです。

 ちなみに、9月末にノルウェー鯖の漁獲枠が、2013年は15%減という科学者からの勧告がありました。このニュースを聞いただけで、一夜にしてそれまでの買手市場が売手市場へと雰囲気ががらりと変わり、ノルウェーの輸出業者は、売れなくても来期の水揚げは少ないので「売値に満足できなければ売らずに持つ」と態度を豹変しました。

 一旦減枠の勧告があった後に、漁家経営への影響を勘案、魚が獲れるので枠を増やす等などの前提などないのです。だから漁獲枠に価値があり、信頼もされるのです。そのような可能性が少しでもあれば、このような状況の変化は起きないのです。上記の30%程度の枠の増減は、世界の水産業の常識から言えば大ニュースです。しかし、日本では上記の増枠により反応する買付け関係者は恐らくいないでしょう。

 科学的根拠をベースにした個別割当ての漁獲枠であれば、その分の魚は確実に獲れますし、価値もあるのです。水産庁が試算した、日本で個別割当て制度(IQ・ITQ)を導入した場合の行政コストは、合計437億円(検査官人件費x3名x597港=140億円、検査官人件費x3,808隻・統=297億円!)という巨額が毎年かかるというものでした。実施のための方法と経費は、漁獲枠の一部を費用に充てる方法を始め、サバ、アジ、イワシ、スケトウダラ等の多獲性魚種に限定する、沿岸漁業の一部を除く等「やる気」になれば、いくらでも考えつくものなのです。

 2012年のアイスランドでの水揚げは約150万トンが見込まれています。この内、個別割当制度(ITQ)の対象は約25種類で、漁獲金額の95~97%がカバーされています。前回ご紹介した新潟県で始まったホッコクアカエビ(甘エビ)の個別割当て制度(IQ= Individual Quota )の取り組みは、約500万トンである日本の水揚げの1%にもなりません。他の水産物で類似しているものを加えたとしても、何れにしてもたったの1%にも満たないので、まだ数量的には話にならない状態なのです。良い取り組みはどんどん紹介して、増やしていくべきです。持続可能な漁業を行い、水産業を復活させていくためには、複数の水産物でTAC(漁獲可能量)を設定し、これを個別割当て制度(IQ・ITQ・IVQ=Individual Vessel Quota)で自主管理ではなく、国家で科学的に管理していくことが不可欠なのです。そしてこのことが、衰退している水産業を成長産業に転換させるための最重要施策なのです。

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