2024年5月1日(水)

渡辺将人の「アメリカを読む」

2012年10月22日

 2008年に党大会2日目をヒラリーとビルの演説に与え、会場のサインを「クリントン」で埋め尽くさせた裏には、対メディアでは「融和」をアピールするため渋々ながらの必要性があった。また、クリントン派の反乱投票を食い止める「ガス抜き」も必要だった。ヒラリーファンの白人女性が共和党に投票する危険が囁かれていたし、マケイン候補がリーバマン上院議員を超党派で副大統領候補に選べば、ユダヤ票も危険だった。支持者を含め、クリントン派は2日目だけに閉じ込めて、他の日と混ぜない、というライバル関係がまだあった。周囲のオバマ派スタッフや熱心なオバマファンには、2日目は会場に足を運ばない者もいたのだ。クリントンとの「和解ムード」は党内のオバマ派議員とそのスタッフの間では、かなり限定的であることを筆者は体感していた。

2012年民主党大会で
クリントン演説に敬意を示したオバマ

 しかし、2012年オバマ陣営には、クリントン派の忠告に耳を傾ける度量があった。オバマがあえてクリントンと党内リベラル派の間に立つことで、階級闘争色が過度になりがちな「経済ポピュリズム」路線の副作用を解毒する意図があった。党内穏健派との挙党態勢の結束を無視しては勝てないという「6月危機」以降の危機感も後押しした。

 2012年民主党全国大会でのクリントンとの「融和」演出は、オバマ陣営側が欲したものだったことは間違いない。オバマはクリントン演説に感謝を示して壇上に裏側から颯爽と登場し、男同士の抱擁を大観衆とテレビカメラの前でアピールした。クリントンの中道路線を否定して大統領になったオバマが、クリントンとクリントン政権の「第三の道」に最大限の敬意を示すことで、「経済ポピュリズム」偏重のキャンペーンに一定のバランスをとったとも言える。

 ローゼンバーグは口を酸っぱくして「成長」が鍵だと、オバマ陣営への期待と苦言を語ってきた。2012年党大会のシャーロットでも、オバマを支えるために様々なイベントを催した。筆者を前に「オンレコで構わない」と堂々と述べるオバマ陣営への苦言は、クリントン派のニューデモクラット運動の立役者として、オバマ陣営への友情的助言である。

 「歳入を増やし、防衛費を削減し、メディケアを制度改革しなければいけない。これら3つをすべてやろうとはしないのなら、その候補者は本気ではない。オバマはこれら3つをしようとしている。増税するし、防衛費を削減するし、メディケアをカットする。メディケアをカットするのは医療保険改革法が通ったからだ。共和党はこれら3つにすべて反対している。アメリカで現在もっとも財政的に無責任な党は共和党だ。民主党ではない。ニューデモクラットとして言わせてもらえば、財政健全化と経済成長だけが、ただ1つオバマに残された道なのだから」


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