2024年5月3日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2012年10月25日

 だからこそ文化的な部分で、エスニシティ、ジェンダー、宗教などもハードルになる面はあります。最高司令官でもあります。これまで白人男性しか大統領になれなかった。ケネディがカトリック教徒で大統領になったのも当時は大変なことでしたが、この先もアメリカでキリスト教徒ではない大統領はそうすぐには出ないでしょう。オバマがもしキリスト教徒でなかったら大統領にはなれなかったでしょう。

 アメリカ人が大統領に求めているのはエリートや秀才タイプではない。アメリカを体現したリーダーを求めています。だから、ジーンズが似合う、気さくでピックアップトラックを運転していそうな、カウボーイ的なW・ブッシュは人気があった。レーガンもそうです。2人とも2期務めています。ゴアやケリーのような、政治や外交の経験が豊富で、頭脳も明晰な人が落選している。

 そういう意味では、オバマはカウボーイ的なものと対極にある人物です。今回2012年の大統領選挙の争点はとにもかくにも経済です。しかし、興味深い底流に、「文化的なアウトサイダー同士の選挙」という含意もあります。アジア太平洋出身で大学入学まで本土で育っておらず、国際かつ異人種間結婚でこの世に生を受けたオバマは、帰国子女でもありバイレイシャル、マルチカルチャラルです。文化的、地理的に古い意味での平均的アメリカ人ではない。

 他方でロムニーも宗教的にモルモン教徒ということで、多数派のアメリカ人ではない。文化的には2人とも「アウトサイダー」的な性格を抱える者同士の戦いで、アメリカが大統領に求めるものが微妙に変化していきているのかもしれません。 

――オバマ大統領を誕生させた大きな要因は?

渡辺氏:選挙の勝利は、候補者本人の資質、そして「風」としての政治環境が必要ですが、その両方が絶妙でした。1つ目のオバマの資質については、言うまでもないことです。大変な「物語」をもった候補者でした。アメリカンドリームの体現者です。

オリジナルTシャツでオバマを応援する地元シカゴのレストラン(撮影:渡辺氏)

 ニューヨーク(コロンビア大学)のあとの行き先が、シカゴになったのも運命の分かれ道でした。シカゴでコミュニティ・オーガナイザーをしていた時代の人脈と経験が、政治家オバマの基礎だからです。地元に溶け込み、アフリカ系社会に馴染み、オーガナイザーの上司にハーヴァード・ロースクールへの推薦状も書いてもらいました。のちにシカゴのミシェル夫人と結婚し、シカゴのリベラル派の支援で政治家になります。

 しかし、より大切なのは2000年代の政治環境です。第1にイラク戦争の泥沼化です。ハリケーン・カトリーナ対応の失態から2006年中間選挙で大敗したブッシュ政権ですが、政権の末期には、なんとなく次は民主党大統領かという雰囲気があったのは事実です。そもそも、民主党支持者のあいだには、フロリダ州の再集計騒ぎでゴアに競り勝ったブッシュへのわだかまりもありました。


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