来月11月6日に迫ったアメリカ大統領選挙。オバマとロムニーの闘いに注目が集まる。振り返ると「Change」というスローガン、そして「黒人初」ということで2009年に世界的な注目を浴び華々しく第44代アメリカ合衆国大統領に就任したバラク・オバマ氏。オバマ氏の大統領就任は、遠く離れた日本でもアメリカが大きく変わるのではないかといった期待を持たせた。
就任後、アメリカの草の根はどう変わったのか。その疑問への回答とも呼べるアメリカの草の根レポートが『分裂するアメリカ』(幻冬舎新書)だ。著者の渡辺将人氏(北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院准教授)は、アメリカで民主党議員事務所やヒラリー・クリントン上院選本部で働いた経歴の持ち主であるが、本書ではティーパーティー運動などの保守層に取材を敢行した。今回、本書のタイトルにもある「分裂」というキーワードで渡辺氏にお話をうかがった。
――本書執筆の経緯について教えてください。
渡辺将人氏(以下渡辺氏):本書は2008年大統領選直後に上梓した『オバマのアメリカ:大統領選挙と超大国のゆくえ』(幻冬舎新書)の「2巻目」ともいえます。しかし、2009年秋に上梓したオバマの伝記『評伝バラク・オバマ:「越境」する大統領』(集英社)の取材・執筆から生まれた問題意識が根にあります。それは「オバマを受け入れるアメリカ」と共にある「オバマを拒否するアメリカ」の深層です。ティーパーティ運動やヒスパニック系の実態など現地取材を広範に行い、アメリカの分裂を見据えました。
『分裂するアメリカ』にインスピレーションを与えた『評伝バラク・オバマ』がどういう経緯で生まれたかと言えば、私は90年代末にイリノイ州選出のシャコウスキー下院議員のワシントン事務所にいまして、これが縁のはじまりでした。シャコウスキーはイリノイ州議会時代のオバマの先輩議員で、早期からオバマを支援していました。2006年にオバマの連邦上院議員当選では、オバマの議会事務所立ち上げでシャコウスキー事務所の旧知のスタッフが移籍しましたし、オバマ政権成立時にも複数が政権入りしました。
さらに、オバマ家は夫人が大学病院の幹部、オバマ本人も教鞭を執るなどシカゴ大学の関係者で、「ハイドパーク」という同じ大学コミュニティの住人でした。それらの縁で、2008年のオバマ選挙を通して、アイオワを皮切りに、デンバーの全国党大会、シカゴの祝勝会、2009年の就任式と、主要な政権誕生の現場に関係者に招待してもらったり、参加したりという幸運に恵まれました。それで、かつての同僚の政権幹部に「外国人の目線で書いてみてはどうか」と勧められて、オバマの人物像について掘り下げる伝記を書くことになったのです。