2023年1月31日(火)

オトナの教養 週末の一冊

2012年10月25日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

 ハワイやインドネシアの関係者には「アメリカの本土の記者には言っても理解してもらえないが、あなたならわかってくれるはずだ」として、深い話をしてくれる方もいました。取材者の私がたまたま日本人、アジア人であったので、心を開いてくれて貴重な写真も提供してくれたのかもしれません。

 ただ、オバマでも変えられない「アメリカの分裂」の深層を探ることも、オバマ政権と同時代のアメリカを照射するうえで、欠かせない課題と感じました。私はこれまで民主党やリベラルのアメリカを解き明かすことに軸足を置いてきました。しかし、「オバマの時代」を理解するには、オバマの前に立ちはだかる「保守のアメリカ」との「分裂」を知ることも大切です。それが今回の『分裂するアメリカ』です。本書の5章「1つのアメリカをめぐる分裂」が、『評伝バラク・オバマ』の取材後記的になっているのはそのためです。

――本書のタイトルにもある「分裂」はアメリカのどのようなところに感じますか?

渡辺氏:ワシントンの議会、ニューヨークの選挙戦で働いていたときに激しい党派的な分裂を経験したことがあります。政治が分裂の現場になるのは、そこにアイデンティティや利害が絡むからです。経済政策や安全保障政策だけではありません。価値的な問題、具体的には銃規制、あるいは人工妊娠中絶のような生命倫理の問題について激しく争います。教会の考え方に共鳴し、同性婚や人工妊娠中絶への賛否を決めることもあります。それが大統領選挙の大きな争点になることは我々には想像しにくいことです。

 また、エスニックな集団意識も非常に強い。同じアジア系でも、中国系、日系、インド系、パキスタン系では利害関係やアイデンティティが違っていたりする。彼らがどのような理由で「リベラル」であったり、民主党支持であるかという理由も違う。その多様なアイデンティティに個別に訴えかけていく「アウトリーチ」という仕事をしていました。

 一般的に、アメリカには民主党と共和党、保守とリベラルという対立があるという見方をされます。しかし、その内実は必ずしも一枚岩ではありません。保守とリベラル、民主党と共和党という対立以外に、リベラルの中の差異、保守の中の差異があります。

 たとえば、アフリカ系の人たちは、公民権運動を支持してくれた民主党に非常に忠誠心が強い。しかし、同性婚といった価値問題では反対にまわることがある。敬虔に黒人教会に所属していて伝統的な価値を信じている人が多いからです。カトリック教徒もそうです。平和と人権、貧困の問題ではリベラルで反戦ですが、人工妊娠中絶や避妊など生命問題では極度に保守的です。必ずしも民主党に集う人がすべておなじ価値を共有しているわけではないです。

――「理念」としての分裂とはどういうことでしょうか?

渡辺氏:アメリカには経済格差とは違う理念をめぐる対立が、政治の原動力になっている面があります。オバマの医療保険改革に反対するティーパーティ活動家や保守層がすべて富裕層ではありません。中流の労働者層もティーパーティにはいる。彼らが嫌っているのは、連邦政府が州の権限や医療保険などの私的領域に介入してくる「大きな政府」です。税の使用範囲という政府の大きさをめぐる理念的な対立です。


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