2024年11月11日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月1日

 米軍のアフニスタンガン撤退は急速に進行している。既に半数は撤退を完了したという。駐留兵力の規模が既に縮小されていたこともあるが、撤退の過程で犠牲を出すことは政治的にも打撃が大きく、撤退に決まった以上、可及的速やかに撤退を完了する方針のようであり、9月11日を大幅に前倒しして7月中旬には撤退を完了するらしい。

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 その後にアフガニスタンで起きることは、その速度がどの程度かは分からないが、タリバンは確実に支配地域を拡大し、カブールにいずれ権力を樹立することになるであろう。そうなれば、アフガニスタンのタリバンを支援するパキスタンの軍情報機関ISIは勝者になり得よう。

 とは言うものの、事はそれでおしまいではない。「パキスタンのタリバン」の動向が注目される。彼らは、イスラムへの忠誠が不十分だとしてパキスタン軍を攻撃することがあった。

 情勢がどう展開するかにインドは無関心ではあり得まい。インド出身の元国連事務次長シャシ・タルールが、オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)に6月9日付で掲載された論説‘Pakistan’s Taliban monster’で指摘する通り、ISIはアフガニスタンをコントロールすることで主要な敵であるインドに挑戦するために必要な「戦略的縦深性」を得られるという観念にとりつかれている。タリバン政権はその最良の保証となる。

 タルールは、「パキスタンのタリバン」の動向について、次の2つのシナリオを示している。

 第1のシナリオ:米軍がアフガニスタンを撤退し、アフガニスタンのタリバンがカブールに権力を確立、平和は回復し、ISIはアフガニスタンをコントロールする。「パキスタンのタリバン」はアフガニスタンに樹立されるタリバン政権の説得に応じ、パキスタン軍の「過去の過ち」を許しパキスタン軍を標的にすることを止め、ISIと共に「本当の敵」であるインド攻撃を強化する。

 第2のシナリオ:アフガニスタンにおける同志の成功に鼓舞されて、「パキスタンのタリバン」は、アフガニスタンでタリバンが達成したことをパキスタンで真似て実現することを目的にテロ攻撃を開始するかも知れない。これはISIにとり悪夢のシナリオと言える。

 タルールが示す2つのシナリオのいずれに転ぶかは分からないが、いずれのシナリオもインドにとって好ましいもののようには思われない。

 今後の情勢に大きく関係してくるのは、パキスタンと米国の関係である。急速に進む米軍撤退に歩調を合わせるべく、米国はアフガニスタンとその周辺におけるテロ組織の動向について情報収集、監視、およびテロ掃討作戦のための拠点を急ぎ探している様子である。パキスタンに軍あるいはCIAのドローンの基地を求めているとの憶測もある。4月にはウイリアム・バーンズCIA長官がパキスタンを訪問したらしい。これに対し、パキスタンの外相が「パキスタンの領土に米国の基地を認めることは決してない」と述べるなど、パキスタンはこの種の憶測を強く否定している。一方、タリバンも声明を発表し「我々は近隣諸国に誰に対してであれ(基地の提供を)しないよう強く要請する。そのような措置が再び取られることがあれば、それは大きな歴史的な誤りであり不名誉となろう」と警告している。

 パキスタンの態度の背景にはイムラン・カーン首相がワシントンに従属的な過去の関係のあり方をかねて強く否定して来ていることもあるが、今やアフガニスタンで最大の勢力になることが確実なタリバンとの関係を損なうような措置には踏み切れないということであろう。米国にとっては痛手となる。仮に米国の要請に応ずることになれば、パキスタンの情勢はタルールの論説が論ずる2番目のシナリオに傾く可能性が強くなるように思われる。

  
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