チャイナ・ウォッチャーの視点

2012年12月18日

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 中国でいう「流動人口」とは、要するに安定した生活基盤を持たずにして職場と住居を転々する人々のことを指している。日本の総人口より1億も多い人々がこのような不安定な生活をしていることはまさに驚くべき「中国的現実」だが、そういう人々の大半が農村部から流れてきた「農民工」であることは、上述の「8割が農村戸籍」との数字によっても示されている。

 今まで、それほど大勢の「農民工」に生活の糧を与えていたのは、中国の高度成長を支えてきた「対外輸出の急成長」と「固定資産投資の継続的拡大」である。

 沿岸地域の輸出向け加工産業が繁栄すると、内陸部農村出身の若者たちが大量に「集団就職」してくる。そして不動産投資や公共事業投資が盛んであった時には、農民工の多くはまた、建設現場の労働力として吸収される。つまり、高度成長が継続している間は、農民工は「流動人口」となっていても、異郷の都市部で何とか生計を立てることができた。

 だが、2011年の後半から、世界的経済不況と中国国内の生産コストの上昇が原因で中国の対外輸出が大幅に減速してしまい、金融引き締めのなかで公共事業投資が激減した。それに加えて、不動産バブルの崩壊が始まると、全国的な「大普請ブーム」はもはや過去のものとなりつつある。

 その結果、多くの農民工が輸出産業と建設現場から「余剰労働力」として吐き出される羽目になった。今年の7月に入ってから、中国の沿岸地域で企業倒産とリストラの嵐が吹き荒れている中で、職を失った農民工の「帰郷ラッシュ」が起きていることが国内の各メディアによって報じられているが、それはまさに、農民工のおかれている厳しい現状の現れであろう。

「新世代農民工の集団的焦燥感に注目せよ」

 都市部での職を失って帰郷できるのはまだ良い方である。前述の「報告」が示しているように、現在の農民工たちの平均年齢は28歳で、20代が大半である。いわば「農民工二世」の彼らの多くは実は都市部で成長していてすでに「農民」ではなくなっている。彼らはいまさら農村部に帰っても耕す農地もないし、農作業のことは何も分からない。彼らにはもはや、「帰郷」すべき「郷」というものがないのである。

 農村には帰れず都市部にとどまっても満足に職に就けない彼らの存在は当然、深刻な社会問題となってくる。その人数が億単位にでも達していれば、それこそ政権にとってたいへん危険な「不安定要素」となろう。中国共産党中央党学校が発行する「学習時報」の8月6日号は、「新世代農民工の集団的焦燥感に注目せよ」との原稿を掲載して「新世代農民工たちの焦燥感が集団的憤怒に発展するのを防ぐべきだ」と論じたのは、まさにこの問題に対する政権の危機感の現れであろう。

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