ノルウェー式の資源管理は
日本の水産資源復活に直結するか?


片野 歩 (かたの・あゆむ)  水産会社 海外担当

東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『魚はどこに消えた?』(ウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

日本の漁業は崖っぷち

成長する世界の水産業の中で、取り残されてしまっている日本。潜在力はありながらも、なぜ「もうかる」仕組みが実現できないのか。海外の事例をヒントに、解決策を探る。

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12月末に就任された林芳正・農林水産大臣は「攻めの農林水産ということに意を用いていきたい」と強調しています。「今の日本における水産業を取り巻く環境は、「魚価の低迷」「燃油高騰」「担い手の育成」「老朽化している代船建造」等々の問題が山積み」(大日本水産会)というのが共通した認識かと思います。しかし、買付け担当者である筆者は、北欧各国の買付け先から、燃料費の上昇による値上げを要求されたことはありません。さらに魚価については、低迷どころか、全般的に上昇しています。日本の水産業の現実とは、まるで別世界の話です。

科学的根拠に基づいた漁獲枠と厳格な個別割当て

 もちろん燃料費は、北欧の国々でも問題になっているはずです。しかし、燃料費の上昇を理由に魚価をあげようとしても、需給バランスがあるので国際市場は受け入れてくれません。また日本の消費者も、燃料費が高くなった分だけそれを理解して料金を支払ってはくれないのです。

 そこで北欧での燃料費対策は、2隻だった漁船を1隻に集約したり、新しい大型船に換えたりするケースが増えています。また、漁場の情報や獲れた魚の内容をお互いにオープンにして、無駄に漁場を探し回らずに燃料費を削減するやり方も、既に当たり前になっています。本当に儲かり続けている漁業者にとっては、漁業者間で競争する時代は、随分前に終わっているのです。それもこれも、漁獲枠(TAC)が科学的根拠に基づいて設定され、漁獲してよい数量が、漁業者や漁船に個別かつ厳格に割り当られていること、そしてきちんと枠を守ることが得であることを、漁業者が知っているからなのです。

漁獲枠の導入で水産資源復活の保証は?

 「厳格なTACと個別割当て制度が導入されれば、日本の水産資源が復活する保証はあるだろうか?」。その問いに関し、筆者は世界での成功事例を基に、天変地異や海水が真水やお湯にでもならない限り復活できると考えています。

 しかし、回復のスピードは、資源の痛み方の度合いによります。重傷になると10年単位の時間がかかってしまいます。また魚が、ほぼ根絶やしにされてしまったケース(北海道のニシン、東シナ海のタチウオやグチ等)では、さすがに回復にかかる期間はわかりません。北欧を始めとした海外の国々では、科学的で厳格な漁獲枠(TAC)を設定し、漁業者(一部漁業者以外が枠を持っている国もある)もしくは漁船毎に、個別割当制度(IQ・ITQ・IVQ)を導入して成長を続けています。

 個別割当て制度については、日本では新潟の甘エビを始め全部合わせても、年間総水揚げ数量約500万トンに対し、水揚げ数量の1%未満と極々限られた水産物にしか適用が始まっていません。この制度の下、資源が厳格に管理されれば、良い結果が出ることは、海外の例を見れば明らかです。ルールを守らなければ資源は回復しませんが、漁業者が割当てられた量を守らないなどの不正を起こさせない対策法も、過去の違反事例からすでに存在します。だから、その制度を理解した方々からは、「日本は何ですぐ取り入れられないのか?」という意見が出てきます。

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「日本の漁業は崖っぷち」

著者

片野 歩(かたの・あゆむ)

水産会社 海外担当

東京生まれ。早稲田大学卒。2015年水産物の持続可能性(サスティナビリティー)を議論する国際会議シーフードサミットで日本人初の最優秀賞を政策提言(Advocacy)部門で受賞。1990年より、最前線で北欧を主体とした水産物の買付業務に携わる。特に世界第2位の輸出国として成長を続けているノルウェーには、20年以上、毎年訪問を続け、日本の水産業との違いを目の当たりにしてきた。著書に『魚はどこに消えた?』(ウェッジ)、『日本の水産業は復活できる!』(日本経済新聞出版社)、「ノルウェーの水産資源管理改革」(八田達夫・髙田眞著『日本の農林水産業』<日本経済新聞出版社>所収)。

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