2024年5月11日(土)

田部康喜のTV読本

2022年4月9日

 「最悪の事態」とはなにか?

 「ウクライナが北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないことから、米国や欧州はロシアに対して直接的な軍事行動はしていない。このことをクレムリンは弱腰だと考えている。ロシアは次にバルト3国を攻撃するかもしれない。また、中国が台湾に侵攻した場合に、米国は武器を取るのか? なにもしなかった場合、今度は日本が米国に守ってもらえないと考えるようになる。そして、日本も自衛のために核保有を主張する。これから起きる最悪のシナリオだ」

「侵攻は西側の数十年間にわたる過ちの積み重ね」

 国際政治学者のイアン・ブレマーは、冷戦の終結によって、ロシアが受けた心理的な深い傷について指摘する。

 「ロシアは、屈辱を味わったと思う。彼らは、自分たちの帝国を失った。(西側は)東欧を発展させたが、ロシアはNATOからはずされた。『G7+1』という言葉を覚えていますか? 『+1』てなんだって話だ。怒りを持って、ロシアは漂流した」

 ブレマーは、冷戦後の世界を描いた『「Gゼロ」後の世界』の著者として知られる。米国が「世界の警察官」をやめたときになにが起きるのか。彼は、6月の時点で、ロシアのウクライナ侵攻の可能性を述べていた。

 「米国は、プーチンに関心がなかった。今回の侵攻の責任は、西側にある。プーチンは、数週間にわたって戦争犯罪を犯してきた。西側諸国の数十年にわたる過ちの積み重ねの重さについて理解すべきだ」

 ブレマーは、いまの事態を〝キューバ危機2.0〟と呼んで、核戦争の可能性に言及した。「キューバ危機」とは、旧ソ連が1962年、米国の鼻先であるキューバに攻撃用ミサイルを持ち込んだ事件だ。核戦争の瀬戸際だったとされる。米国のケネディー大統領と旧ソ連のフルシチョフ首相の秘密裏の交渉によって、旧ソ連はミサイルを撤去した。

 「どんな政治的決断においても、今後は核の対立の可能性を考慮しなければなりません。世界大戦の可能性はある。本当に弱ってしまう。ポストモダンとかグローバリゼーションでもない。80億人の人間の命がかかっている」

プーチンは民主主義の仮面をすぐ脱いだ

 ノーベル賞作家のスヴェトラーナ・アレクシエービッチは、ジャーナリストでもある。ウクライナで生まれ3歳までいた。その後、父の故郷であるベラルーシに。その作品は、一貫して、戦争と人間の証言である。

 『戦争は女の顔をしていない』(84年)は、女性のソ連兵の言葉を綴った。『アフガン帰還兵の証言』(95年)は、アフガン戦争のロシア帰還兵の言葉である。この中から、番組は、兵士のいくつかの言葉を引用した。

「弾丸が人間に突き刺さる。誰も容赦しない。子どもを撃つこともできる」
「(帰還してから)2年間は自分を葬る夢を見続けた。自殺するには銃がないという恐怖で目が覚める」


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