2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年5月21日

 さらに、日本がこうした計画に何らかの関与をするとすれば、それは、東京が北京との関係にダメージを与えるリスクを冒す用意があることが前提である。

 そのようなシナリオは、尖閣問題が続けば、想定できないことではない。既に、台湾との漁業協定に調印することで、東京は、台湾との協力を高め、台湾の主権的地位を支持するような協定に署名することに前向きであることを示している。日中関係の緊張の高まりの中で、東京は、台北と北京の亀裂をさらに広げるような政策に関与する誘惑に駆られよう。台湾の潜水艦建造を助けることは、まさにそういうカテゴリーに属する政策である、と論じています。

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 著者のコールは、カナダの諜報機関に勤務した経験もあり、これまでも台湾に関する多くの論説を発表しています。その多くは、かつての情報関係者らしく、正確でバランスの取れたものであり、今回の論説も、それなりに信頼性があると思われます。

 台湾の防衛上潜水艦が重要なこと、戦略上、戦術上、自明の理ですが、提供を約束した米国がディーゼル潜水艦の建造を中止したために、その後この話は中断されたままとなっています。

 日本への期待については、確かに、武器輸出三原則を緩和して以来、武器または武器技術と輸出は形式的な枠でなく、時の政府の決断次第で出来るようになっていると言えます。

 しかし、対台湾潜水艦あるいは潜水艦建造技術の提供は、対中関係の考慮の上では、現状では、この論説でも言っているように、今後、領土問題などで日中関係が真に悪化したような場合は別にして、日本政府にとっては困難な問題でしょう。ただ、本論説の言うように、一部ノウハウを米国に提供して、米国からの援助の形とするのは一つのアイデアでしょう。そのノウハウが、現在米国では失われていても、過去に米国が保有し、特に新しいものでない場合は、それは可能と思われます。

 この論説も指摘しているように、ワシントン内で台湾の軍事力強化については反対もあります。特に、第二期オバマ政権が中国との対話路線を取りつつあるこの時期には反対も強いのでしょう。

 しかし,時勢は変わるものです。米中関係も、第二期オバマ政権の対中対話政策の今後の成り行き如何によって変わる可能性もあります。

 台湾内部でも、第一期馬政権の間は、こういう議論は出て来る余地もなかった状況でしたが、この論説を見ると、現在は台湾の安全保障を真剣に議論する雰囲気が再び生まれて来ているのかもしれません。

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