2024年5月13日(月)

21世紀の安全保障論

2022年12月29日

 そしてドローンは巡航ミサイルよりも優れた点が2点ある。第一に巡航ミサイルよりも迎撃が困難な点だ。米軍事サイト『The War Zone』のベテラン記者のトーマス・ニューディック氏は、ドローンはレーダー反射率が低いためにレーダー上には鳥の群れやトラックのようにしか映らないと指摘する。しかも巡航ミサイルの場合は、高速のために周波数が変化するドップラー効果が発生し、戦闘機のレーダーから捕捉しやすいが、ドローンの場合は低速のために起伏に富んだ地形の場合、簡単に見失うとする。

 実際、イラン製自爆ドローンを要撃する任務に従事しているウクライナ空軍の戦闘機パイロットのジュース氏は「ドローンを迎撃する場合、特に夜間はさらに迎撃が難しくなる。この種の脅威を捜索して追跡し、撃墜することは非常に困難だ。しかも人口密集地の上空を飛行している場合はその場で撃墜できなかった」と証言している。

 第二はコスト面だ。トマホークミサイルは最新型のブロックⅣの場合、1発2.6億円程度で、射程は3000キロメートルで450キログラムの弾頭をもたらす。一方、ドローンにおいては、イランのシャヘド136が射程2500キロメートルで最大50キログラムの弾頭を270万円程度で精密誘導できる。改造しなければカメラを保有しないシャヘド136では難しいが、一般的な自爆ドローンであれば巡航ミサイルでは不可能な偵察も可能だ。

 これは迎撃時の消耗戦に直結する。例えばサウジアラビア軍もイラン製ドローンを迎撃していたが、その際に彼らはF-15SA戦闘機で要撃していた。飛行時間あたり385万円がかかり、この時点で迎撃に成功してもイラン製自爆ドローンは数十万円や270万円のタイプなので赤字は確定だ。

 しかもサウジ軍は約1.3億円の空対空ミサイルによる迎撃も行っており、この時点で大赤字だ。仮に安価で短距離に向いたAIM-9X サイドワインダーを使っても平均単価は 5700万~6200万円がかかるので、やはり大赤字だ。

 こうしてみるとドローンによる攻撃は迎撃しにくい巡航ミサイルよりも、さらに迎撃が困難な上に迎撃に成功したとしてもコスト面での負荷をかけてくるのだ。迎撃しても、失敗してもコスト的な負荷を強制するアセットという訳だ。

 これは日本にとっても他人事ではない。むしろウクライナやロシアより国土が狭隘で重要施設が首都圏に集中しており、世界屈指のドローン大国の中国に隣接している日本の方が深刻だ。

自爆ドローンが日本の重要インフラを襲ったら

 ここで最悪の事例を考えてみよう。

 真冬の日本海において、曇天や高波というのは珍しい気象ではない。ありふれたものだ。そんな時に、超低空でシャへド136のような長距離型自爆ドローン、もしくはミサイルや爆弾を積載した武装ドローン、そして巡航ミサイルが侵入すれば発見は至難だ。

 曇天の場合、光学及び赤外線衛星では雲の下は補足できない。SAR衛星は移動物体を捕捉できない。地上のレーダーサイトは地球が丸いために低空で侵入する目標に対しては探知距離が短くなる。そもそも海面の波浪によるシークラッタやマルチパスのため補足しにくくなる。

 その場合、中国や北朝鮮やロシアが放った自爆及び武装ドローン、それに巡航ミサイルは首都圏の変電所や送電線などの重要インフラまで到達してしまう公算が高い。下手をすれば巡航ミサイルに気を取られている間に、自爆ドローンや武装ドローンが侵入してくるだろう。

 しかもこれらの攻撃はサイバー攻撃や工作員による破壊工作とミックスされて行われると考えるべきだ。そうなれば、関東近郊の変電所や発電所は確実に破壊もしくは機能停止に陥る。

 質が悪いのは、日本の場合は電力システムとガス・水道・通信などの他の重要インフラが組み合わさっており、電力システムの麻痺が他に波及しかねない。連鎖的に首都圏の重要インフラが真冬に停止する可能性がある。

 そうなった場合、果たして日本は、それら交戦国に抗戦できるのだろうか。

 首都圏が停電し、凍える中でガスもスマホも水道も停止した中、徹底抗戦を叫ぶ政府を誰が支持するのだろうか? いや、日本人がそうした中で粘り強さを発揮し、徹底抗戦に傾いたとして、そのような中で民生の通信インフラに依存する自衛隊がまともな作戦行動をとれるのか疑問だ。

 そうであってはいけない。次こそは戦争に政治的に勝利しなければならない。幸いにも公開された防衛三文書では、20年間の自衛隊のドローン研究や戦力化への惰眠と怠惰を吹き飛ばすべく与党主導でさまざまな施策が盛り込まれている。最後まで実現すれば、文民統制の成功と評すべきだろう。


新着記事

»もっと見る