2024年5月21日(火)

未来を拓く貧困対策

2023年1月3日

ひとり親の代弁者として保育所の優先入所を交渉

 第2の事業は、ひとり親が必要とする行政サービスが受けられるように、専門家が窓口に同行するなどの伴走型支援を行うものである。弁護士など法律専門職によるバックアップも想定されている(図表3)。

 この事業のポイントは、保育所、放課後児童クラブ優先入所や家庭生活支援員(ヘルパー)の派遣など、個人で窓口に相談にいっても交渉が難しい案件について、専門家の同行支援を盛り込んだことである。実際に窓口に相談にいくとわかるのだが、保育所の優先入所やひとり親家庭へのヘルパー派遣の相談にいくと、渋い顔をして何とか申請を諦めさせようとする窓口職員が少なくない。

 使われるのは、「誰かを優先すると、そうでない人からクレームがくる。うちは平等に対応している」、「あなたと同じような生活をしている人はたくさんいる」といったもっともらしいロジックである。

 実際には、ひとり親家庭で事情を抱えた人に対しては優先入所させるよう通知がでているし、利用希望者がたくさんいるのであれば補正予算の編成で対応するのが行政の責務である。ただ、ひとり親の多くは十分な知識をもたない。自分の権利を主張できる人は限られる。

「生活保護をご利用ください」と呼びかけられるか

 生活保護の相談窓口では、職員による不適切な対応がたびたびメディアに取り上げられてきた。とりわけひとり親に対しては、「若いから働ける」「別れた夫に養育費の請求を」「実家を頼ったらどうか」「子どもを施設に預けたら」といった助言がなされる場合がある。

 いずれも違法か、違法であると疑われる対応であり、厚生労働省のマニュアルでは不適切とされる事案である。しかし、残念ながら根絶されたとは言い難いのが現状である。

 弁護士や社会福祉士などの専門家が交渉役になることで、行政職員は今までのような言い訳が通用しなくなる。

 ちょうど1年ほど前に、筆者は、「内閣府の子ども貧困調査が描き出す『不都合な現実』」を書いた。

 内閣府調査が明らかにしたのは、貧困層の生活保護の利用は6.0%に留まるという事実である。以前利用したことがある2.7%を含めても、1割に満たない。生活困窮者の自立支援相談窓口の利用は1.0%。母子家庭・自立支援センターは1.4%であり、相談機関としてほとんど機能していないという事実である。

 日本におけるひとり親家庭の貧困率は約半分であることは広く知られている。ひとり親の多くは利用できる制度を知らない。子どもの貧困対策、とりわけ経済給付を進めるということは、こうした人に「生活保護をご利用ください」と呼びかけることである。ひとり親家庭の伴走者が、周りに足を引っ張られずに役割を果たすことができれば、「こどもまんなか社会」の実現に近づくことは間違いない。

 申請主義を建前に利用できるサービスを紹介せず、むしろ何とか利用を諦めさせようとしてきた関係者にとっては、脅威となりうる事業である。


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