2024年5月10日(金)

Wedge REPORT

2023年1月21日

キャドセンターの「REAL 3DMAP」事業で作成された大阪中之島の3DCG

 タワーからバンジージャンプができるとしたらどうだろうか。高い所が苦手な筆者としては遠慮するところだが、バーチャルだと聞いて、それなら大丈夫だろうと、体験させてもらうことにした。VRゴーグルを装着し、台の上にうつ伏せになり、足を器具で固定する。ヘッドセットの画面には東京タワーからの展望が広がる。驚くほどリアルだ。

 「1、2、3、バンジー!」の掛け声と共にうつ伏せになった台が傾けられ、画面は真っ逆さまに落ちていく。バーチャルだと侮ったことを後悔するほどの恐怖を味わうことができた。

 これを開発したキャドセンター(東京都港区)は、1980年代から3Dコンピューターグラフィックス(CG)で画像や映像をつくってきた業界では草分け的な存在だ。これまでマンションなどの建物、インフラなどさまざまな実在するものを3DCG化してきた。それを今、街(都市)全体に広げており、ここでつくられた東京の映像がバーチャルバンジーに応用された。

 東京タワーの展望台では、バンジージャンプを疑似体験することができる(記事執筆時は機器調整中)。現地に足を運び、さらにそこでの体験をより豊かにするというわけだ。マーケティング戦略担当の大住真右さんは「旅前、旅中、旅後で、われわれの技術を使うことができる」と話す。「旅前」では、海外など観光地のバーチャル映像で、写真以上の臨場感を味わってもらうことで旅への意欲を高めてもらう。「旅中」は、バーチャルバンジーの他にも、城跡に行って往時の城郭をバーチャルで見るというアプリがある。仙台城や姫路城などでサービスが展開されている。こうしたアプリ開発の依頼が自治体から増えているという。そして「旅後」では、このようなバーチャル体験を通じて撮影した映像や写真を、旅から帰った後で楽しむというものだ。

 「メタバース」のようなバーチャル空間が生まれることによって、現実と仮想空間の融合が進むと、人々は家にいながらにして、世界のどこにでも出かけることができたり、遠くにいる友人と共に過ごしたりすることができる。つまり、プラスの意味で人の移動が不要になることが語られる。しかし、キャドセンターのサービスのように、人々の移動を促すバーチャルの使い方も存在するのだ。

バーチャルが人と場所のつなぎ役になる

被爆前の広島原爆ドームのバーチャル映像(旧広島産業奨励館、たびまちゲート広島)

 リアルとの融合という例では、「ピースパークツアーVR」がある。このツアーは、ガイドと共に広島の平和記念公園内と原爆ドーム沿いを散策、5カ所でコンテンツをVRヘッドセットで見て、被爆前、被爆直後、復興という時間軸で広島の街の様子を見ながら、原爆をより知ってもらうために企画されたツアーだ。移動距離は800㍍と短いが、所要時間80分という、かなり中身の濃いツアーになっている。

 VTuber(バーチャルユーチューバー)。インターネットやユーチューブなどのメディアで、2D、3Dキャラクター(アバター)をまとって、動画配信をする人々のことだ。このVチューバーを活用して地域活性化に貢献しているのがuyet(ユエット、東京都渋谷区)だ。代表の金井洸樹さんは「Vチューバーなどを活用したキャラクター・コマースの利用をもっと広げたい」という思いで2021年に起業した。

三ケ日みかんが出荷された箱には、販売に協力したVチューバーがあしらわれた(uyet)

 地域の生産者をサポートするきっかけになったのは、浜名湖に面する浜松市三ケ日町のみかん生産者との出会いだった。22年1月のことだ。形が悪かったり、キズがついたりしたみかんの販売について生産者が困っているという話を聞き、Vチューバーを活用してインターネットで販売したところ、大いに売れた。

ライブ配信でVチューバーが販売した様子

 これをきっかけにして「販売チャンネルがない。チャンネルはあるものの認知度がない……。そんな課題を抱えている地域の生産者や小売、流通の皆さんをサポートできると考えた」(金井さん)。昨年10月には、JA全農が運営する産地直送通販サイト「JAタウン」などと、「バーチャル物産展@JAタウン」を開催した。JAタウンの商品の中から各地の特産の10商品を選定し、30人のVチューバーが販売するというもので大盛況となった。

 「最近では、実際に販売先を訪問したという話も聞くようになった」と、金井さん。単なるeコマースだけではなく、地域と人々の新たな交流のきっかけとなる可能性も秘めている。


新着記事

»もっと見る