2024年4月29日(月)

プーチンのロシア

2023年2月21日

 彼らは簡単な訓練で銃器の扱いを覚えると即座に最前線に投じられた。しかし彼らの役割は、精鋭部隊が入る前にウクライナ軍の激しい攻撃の前に身をさらす〝肉の壁〟の役割だった。おじけづいて命令を無視した元囚人が、自分で墓穴を掘らされて、処刑されたとの証言もある。

 ワグネルの手法から浮かび上がるのは、ロシア国内で法の支配が恣意的にゆがめられ、機能しなくなっている現実だ。私兵になることと引き換えに、公的に認められた重罪が許される。法の正義を踏みにじるプリゴジン氏はプーチン大統領に近しい政商であり、彼は〝上から承認〟されていると公言すらしている。

 一部の自治体では、死亡したワグネルの兵士を「犯罪者だ」として埋葬を拒否したというが、プリゴジン氏はそのような自治体の首長に対し、「お前たちの子供を前線に放り込む」と恫喝したという。       

終わりが見えない戦争

 攻めている側のロシア社会がゆがみ続ける中、ウクライナ侵略は終わりがまったく見えない状況に陥りつつある。

 開戦1年となる24日を前に、ロシア軍が大規模攻勢をかけるとの見方は依然として強く、実際に東部戦線では攻撃が激化しているとも伝えられる。ロシア軍は年初にゲラシモフ参謀総長が総司令官に就任するなど、立て直しを図ろうともしている。ウクライナ国境付近にはロシア空軍の戦闘機やヘリが集結している事実も報じられた。

 さらに21日には、プーチン大統領が延期していた年次教書の発表が予定されている。これを機に、ロシアがウクライナ側に対する新たな揺さぶりをかけてくる可能性が高い。

 ただ、ロシア軍の攻勢がどこまで占領地の拡大につながるかは見えない。ロシア軍はすでに精密誘導弾の8割を消費したとされるほか、弾薬や部隊の不足も指摘される。ロシア軍はワグネルなどもあわせて膨大な兵力を東部戦線に投じているが、昨秋以降はバフムト近郊の都市ソレダルを制圧したこと以外は目立った戦果は上がっていない。

 バフムトは東部の交通の要衝とされ、ウクライナ軍に対する補給でも重要な役割を果たしていた。ただ一方でバフムトは約8カ月にもわたるロシア側の攻撃で激しく破壊され、その戦略的価値を疑問視する声もある。

 「あまりに長期間にわたって同市の占領を目指して攻撃してきた手前、ロシア軍はバフムト陥落を目指す方針を変更できなくなっている」(ウクライナ軍幹部)とも指摘される。同戦線にはワグネルの私兵が大量動員されているが、その制圧目標はプリゴジンの〝政治的動機〟と関連があるともいわれ、戦術的な意義以上に激しい攻撃にさらされている。

 これに対し、ウクライナ軍は欧米の新たな軍事支援を取り付け、春に向けて攻勢をかけようとしている。ゼレンスキー大統領は2月には英国、フランス、ベルギーを訪問。ブリュッセルでは、欧州連合(EU)首脳会議に初めて参加し、戦闘機の供与を求め、「複数のEU加盟国から前向きな反応を得た」としている。

 米国とドイツはこれに先立ち、主力戦車のウクライナへの供与を相次ぎ表明した。ドイツは欧州で使用される最新型戦車「レオパルト2」を製造するが、同戦車を保有する各国に対し、ウクライナへの輸出も承認した。

 ドイツは欧州に約2000両のレオパルト2を供給しており、同国の方針転換はウクライナにとり重要な意味を持つ。米国のオースティン国防長官は2月14日、ブリュッセルで行われた欧州各国とのウクライナへの支援会合後に、「ウクライナ軍は春にもロシア軍に対する攻勢に出る」と明言した。


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