2024年5月17日(金)

World Energy Watch

2023年6月8日

 2011年のノルドストリーム海底パイプラインの開通により、欧州連合(EU)諸国は、天然ガス需要量の約50%をロシアに依存するようになった。

 ロシアのウクライナ侵略後、EUはロシア産石炭、原油・石油製品の輸入禁止に踏み切り、天然ガス購入量も抑制を続けている。

 ロシアは石油についてはEU市場に代わり主としてインドに販売することにより販売量を維持しているとみられるが、パイプライン経由の天然ガスの販売数量は大きく落ち込んでいる。

 ロシアは液化天然ガス(LNG)の輸出能力を現在の年間3000万トンから1億トンに増強する計画を発表したが、見合う需要を見つけることは困難だ。今後、ロシア産化石燃料の輸出数量は段階的に減少するとみられる。

 主要国に脱炭素の動きがあるとはいえ、世界の化石燃料依存がまだ続く中でロシアはエネルギー覇権を失うことになる。

世界で依然として続く化石燃料への依存

 再エネに関する多くの報道が目につくが、世界のエネルギー供給における比率は、水力、薪を含めても16%に過ぎず、依然として主力は化石燃料だ。石油、石炭、天然ガスの供給シェアは、それぞれ29%、27%、23%。合計では約8割を占める。

 これから再エネの比率が増えていくが、それでも化石燃料は依然として供給において大きな位置を占める可能性が高い。

 国際エネルギー機関(IEA)は、将来の脱炭素に向けた分析を行っている。現在の政策設定による予測(公表政策シナリオ-STEPS)では、石炭の減少はあるが、石油と天然ガス供給量は今よりも増える(図-4)。

出所:国際エネルギー機関

 日本を含め各国が表明したネットゼロを含む意欲的な目標が全て達成される前提の予測(表明公約シナリオ-APS)においても、50年に化石燃料は今の半分程度使用されることになる(図-5)。

出所:国際エネルギー機関

 いずれのシナリオにおいても、再エネは大きな伸びを示しており、現在の3倍から4倍の導入量となる。

 世界が温室効果ガス排出量ネットゼロを目指すのであれば、再エネ設備の導入量はさらに増える。50年ネットゼロ実現シナリオ(NZE)では、50年の化石燃料利用の大半には二酸化炭素(CO2)の捕捉貯留設備(CCUS)が必要になるとされ、50年のエネルギー供給の7割は、太陽光、風力、近代的バイオマス利用などの再エネになる(図-6)。

出所:国際エネルギー機関

 現在の政策に基づくSTEPSからネットゼロを目指すNZEまでエネルギー構成の差は大きい。成長しながらエネルギー消費量を抑制し、送電線整備費用などが必要となる再エネが供給の主体になるNZE達成には大きな困難が伴いそうだ。


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