2024年5月18日(土)

プーチンのロシア

2023年8月25日

 ニューアーク・ラトガース大学のウクライナ、ロシア、ソ連が専門のアレクサンダー・モティル教授はつい数日前、プーチン大統領が開始したウクライナ戦は当のロシアを弱体化し、国を崩壊にまで追い込むとして次のように論じた(’The Ukraine War might really break up the Russian Federation’ ALEXANDER J. MOTYL,The Hill,2023年8月13日)。

 「今やロシアという国の崩壊の可能性を真剣に受け止め始める時期が来た。多くのアナリストは、プーチン大統領の今回の破滅的な戦争はロシアを崩壊させると見ている。専制ロシアの没落で世界は良くなるだろう。北大西洋条約機構(NATO)の東部戦線はより安全になる。ウクライナ、ジョージア、モルドバはロシアを恐れずに欧州連合(EU)やNATOへの加入を目指すだろう。また、中央アジアの国々もますます解放感を感じるだろう」

指導者としての資質へ疑問も

 一方、米国外交問題評議会(CFR)のリアナ・フィックスと米国の戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・キマージュの両氏は6月27日付けフォーリン・アフェアーズ誌で「プーチン大統領はロシアにとって全く脅威ですらない国、ウクライナを侵略し、軍事作戦で何度も失敗し、一挙にその無能さを露呈した」と論じた(’The Beginning of the End for Putin?’ Liana Fix and Michael Kimmage,Foreign Affairs June 27, 2023)。 

 さらに「プリゴジンの乱の始末でミソをつけ結果、大統領は全能の独裁者としての神秘性をぶち壊した」と指摘。そして「プリゴジンの動機と意図が何であれ、彼の反乱はプーチン政権の深刻な弱点である庶民蔑視を白日の下にさらした。[中略]プーチンは狡猾にもこの国の非エリート層に戦争の犠牲を押し付けた。要するに貧乏人が恐ろしい戦いに引きずり込まれたのだ。多くの『にわか兵士』達は、自分たちが何のために戦い、死んでいくのか、いまだにわかっていない」と語っている。

 カーネギー財団のタチアナ・スタノバ―ヤ女史はウクライナ戦争がロシアを変えた、深刻な内部変化が進行中だとしている(’Putin’s Age of Chaos:The Dangers of Russian Disorder' Tatiana Stanovaya,FOREIGN AFFAIRS,August 8, 2023)。そしてプーチン大統領が抑々国家の指導者としては欠陥人間だと長々と論じた。

崩壊後はどうなるのか?

 ロシアの苦戦は既に世界中が知っている。しかし、抑々ロシアは本当に崩壊するか? まずそこに大きな疑問がある。

 そして万一そうなった時、誰が後継政府を掌握し、ロシアをどの方向にもっていこうとするのか? ロシア国民が自分の国の将来にどれだけ関与出来るのか? 大きな疑問だ。

 むしろプーチン氏の息のかかった既成のエリート指導層が登場してくる可能性の方が高い。その際、核兵器はどう扱われるのか? 無数の深刻な問題が飛び出してくる。本当に既成の議論を飛び超える話になるのだろうか。

 フランスのモンテーニュ研究所は早速このロシア崩壊論に関する長文の論考を発表している(’After the Fall. Must We Prepare for the Breakup of Russia?’ Bruno Tertrais,Institut Montaigne,20/03/2023)。それによれば、ロシアの崩壊は現実化するだろうから、2023年が終わるまでに欧州側が欧州全体の安全保障の将来へのビジョンを公表することが西側にとって有利になると論じている。新生ロシアが生まれるのを期して、欧州全体の安全保障を構想し、新生ロシアを受け入れて行くべきだというという趣旨だ。

 なおプーチン政権の崩壊に関しては日本の報道機関でも幾つか取り上げられている(『「崩壊のカウントダウン始まった」 ロシアの反体制派、日本で集会』朝日新聞DIGITAL、2023年8月1日、『米大学教授、ウクライナ侵攻 ロシア帝国崩壊に帰結』日本経済新聞、2023年6月12日)


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