2024年5月16日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2023年11月2日

 二者択一を迫られたハンガリー政府は、つまるところ貿易におけるEUへの依存度が圧倒的に高く、EUの秩序を選択している立場上、ついにETCSの正式採用に傾き、鉄道保安システムが中国技術のままである間は資金拠出を拒むようになった。(洛松斉「欧盟境内一帯一路行程之一的匈塞鉄路面臨困難」『端伝媒・零博客』2023.10.4。この記事はハンガリーのメディア『Telex』による報道を踏まえている、Telex: Nem tudják befejezni a kínaiak a Budapest–Belgrád építését, és ez még súlyos tízmilliárdokba kerülhet nekünk

 そこで問題解決は、一帯一路サミットに際して開催された習近平・オルバン会談での直談判に持ち越された。一応、習近平・オルバン会談においては、両者の友好協力関係が強調されたものの、習近平氏が「ハンガリー・セルビア鉄道の予定通りの完成を勝ち取る必要がある」と述べたことの裏を返せば、建設が確かに大きな壁に直面していることを示唆する。

 両者の詳細な協議の内容は恐らく機密扱いで知る由もないが、もし問題がこじれて未解決=建設停止のままとなれば、体制・秩序と技術規格の問題で最終的にハンガリーはEU側に立たざるを得ず、さらにはセルビア領内における技術規格もやはりEU側に合わせる必要も生じ、欧州における一帯一路鉄道は袋小路に陥りかねない可能性がある。

一帯一路へは複眼的な観察を

 こうしたセルビア・ハンガリー両国の状況をみるにつけ、いくら中国が「体制や立場の違いを超えたWin-Win」を強調しても、規範・技術などさまざまな場面で《どちらかを選択する必要》が生じ、個別の国が目指す将来像に照らして、中国の一帯一路と「多極化世界」への関与の度合いを調整せざるを得ない局面が訪れることが分かる。また中国も今や、国際関係を価値観対立で捉える傾向を強めることで、一帯一路を自身が批判してやまない「価値観に基づく小さなサークル」にしつつある。

 そこで日本にも求められるのは、中国の一帯一路戦略について、単に「中国独自の多極化世界構想によるグローバル秩序・経済の現状変更の試み」とみるだけではない、複眼的な観察力ということになろう。全ての国は、自国の国益が別の一国の主導下に握られることを好まず、常に外交・経済関係の多角化を求めるものである以上、諸外国の国益と国際関係の実像を冷静に見極め、より開かれた価値観や規範への選好や日本の要素技術の導入を働きかけるタイミングを逃さないことに尽きる。

中国について、さまざまな視点から伝える連載「チャイナ・ウォッチャーの視点」の記事はこちら

   
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