2024年5月16日(木)

田部康喜のTV読本

2023年11月29日

 戦前から舞台や映画で喜劇人を観るとともに、主要な喜劇人と交流があった作家の小林信彦さんの名著「決定版 日本の喜劇人」(新潮社、2021年)が紙幅を割いた渥美清についての記述を引用したい。

 「ただ極端な個人主義者であり、合理主義者であり、それが変人に近い域まで達しているから、人情もろい寅さん的人物と考えて接すると、イメージを裏切られることになる。

 対人関係が下手というより、面倒くさがりであり、芸のことだかで手いっぱいだという稀有な男である。だから、フーテンの寅のヒットが出るまで、ずいぶん苦労したはずである」

 「渥美は器用なのか不器用なのか、わからない……と、かつて、長谷部日出雄は書いていたが、私は、ずばりといって不器用な役者だと思う」

 私生活をいっさい明らかにしなかった渥美と似て、吉岡の姿も重なるところが多い。

 NHKの「ファミリーストーリー」(11月3日)に登場したときは驚いたが、あくまでも家系の話であり、軍人役を断るのは親族に出征して亡くなった人がいるからだ、と語ったのは印象に残った。

今ドラマも個性派の「家族」たち

 「コタツのない家」のなかで、かつてはヒット作を飛ばしながらも書けない時期が長い漫画家の深堀悠作を吉岡は演じている。ウェディングプランナー会社を営む妻・万里江(小池栄子)の収入に頼るダメ夫である。一人息子の高校3年生の順基(作間龍斗)とも微妙な距離感がある。

 万里江の父・山神達男(小林薫)はエリート商社マンだった。母・貝田清美(高橋恵子)とは離婚している。達男は群馬県の山の中で警察に保護されて、悠作(吉岡)と万里江(小池)の家に転がり込む。

 悠作の才能を惜しんでなにかと声をかけてくる、編集者の土門幸平(北村一輝)は、同居することになった義父の達男(小林)と家族の日常を漫画にしてはどうか、と勧める。いったんは乗り気になった悠作だったが、達男が口うるさいのに閉口したのと、達男も群馬で知り合ったスナックのママのところにあっという間に帰っていく始末である。

 第6話「後継者は君だ」(11月22日)に至って、悠作の実家の和菓子屋を一人息子の順基(作間)が継ぐ話が持ち上がる。実家は長男の悠作が漫画家になったので、弟の謙作(豊本明長)が独身のまま継いでいた。

 順基(作間)が大学の推薦をけって、進路に迷っている。「和菓子づくりに興味がある」といっていた順基を店主となっている謙作がアルバイト代わりに誘ったのだった。

 自宅に事情を説明にきた弟の謙作に悠作は「なにいってんだよ」と、大反対である。謙作が「兄さんが自由な漫画家の職についたから俺が実家を継いだんだ」という。


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