2024年5月17日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2023年12月8日

 ちなみに最近話題になっている糖尿病の治療薬を使ったGLP-1ダイエットは満腹中枢を刺激することで食欲を減らすので、カロリー制限や運動をしなくても楽にダイエットができる。食べたいだけ食べてもやせられる夢の薬と言われるが、米国では年間の薬価が200万円程度になり、副作用の懸念もあるという。昔は金持ちだけが肥満になったが、現代は金持ちだけが楽をしてダイエットができる時代になったようだ。

砂糖の消費量と肥満の相関は?

 砂糖が肥満の原因なら、砂糖消費量と肥満の割合は相関するはずである。統計値を見ると、日本の砂糖消費量は中国やインドと共に世界で最も少ない。そしてこれらの国では肥満の比率が世界で最も低い。

 他方、ブラジル、豪州、米国などは砂糖消費量も肥満の率も日本よりずっと高い。ということは砂糖が肥満の原因という話とよく合う。

 しかし経時変化を見ると話は変わる。日本では1977年以後、砂糖の摂取量が減少傾向にあるのに対して、肥満や糖尿病は増加傾向にある。世界全体を見ても砂糖の消費量は70年代以後ほとんど変わらないかむしろ下がっているのだが、肥満率は80年代から現在まで右肩上がりに増加している。

 この問題を複雑にしているのが人種差だ。肥満の原因の一つが遺伝子であり 、その違いのためアジアでは肥満が少なく欧米では肥満が多いと考えられている。このように多くのデータから、肥満と砂糖の相関関係は否定されている。

学会と国際機関の対応は?

 米国心臓協会は2009年に肥満と心血管系疾患の世界的な増加は糖分の過剰摂取の結果として、その摂取量を減らすことを推奨した。そして、01~04年の米国人の糖分摂取量は1日当たり小匙22.2杯だったが1970~05年に19%増加し、エネルギー摂取量は76キロカロリー増加し、これは米国食事ガイドラインの砂糖摂取量を大幅に超えていること、その主な供給源は転化糖を含む清涼飲料水だったこと、そして糖分の過剰摂取は代謝異常や健康被害、必須栄養素の不足、エネルギー摂取量と体重の増加になるなどと述べている。

 WHOは15年に砂糖や果糖などの遊離糖の摂取量を総エネルギーの10%未満に減らすことを推奨した。さらに糖分を多く含む炭酸飲料や果汁入り飲料には1缶当たり小匙10杯分の砂糖が含まれるとして、これらに課税することで消費量を抑制し、肥満や糖尿病、虫歯の患者を減らす効果があると16年に指摘した

 20年の「日本人の食事摂取基準」は「糖類の過剰摂取が肥満やう歯の原因となるが、摂取量の把握が困難」として目標量は設定していない。他方、飽和脂肪酸は、生活習慣病、高LDLコレステロール血症と循環器疾患の危険因子であるとして上限を設定している。


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