WEDGE REPORT

2013年10月28日

»著者プロフィール
著者
閉じる

澤 昭裕 (さわ・あきひろ)

国際環境経済研究所所長

1957年、大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)入省。東京大学先端科学技術研究センター教授等を経て現職。21世紀政策研究所研究主幹も務める。

再稼動、電力自由化、ファイナンス、賠償・・・・・・。原子力問題が混迷の度を深めている。福島第一原発事故の処理も相まって、原子力関連事業の将来像が見えない状態だ。今こそ、バックエンドのあり方も含めた総合的な解決案が必要とされている。ここに、様々な要素を盛り込んだ原子力事業環境整備法案の策定を提案する。事故の反省に立ち、事業者による自律的な安全性向上メカニズムを織り込みながら、事業環境の整備に必要な措置を網羅した。これを叩き台にした真摯な論議を望む。

原子力事業を取り巻く逆境

 まず、原子力事業を巡って福島第一原発事故以降に生じた重要な環境変化を見ていこう。第一に、政治的な変化だ。脱原発を掲げた民主党時代の革新的エネルギー・環境戦略が政権交代で無効化されたものの、自公政権に戻っても原子力政策に往年の推進ムードはない。原子力政策についての政治的な支持が構造的に変化し、希薄化しているからである。

 その原因としては、(1)事故収束の遅れの中で反原発世論が長期化・定着化しはじめ、国や事業者に対する不信感が払拭されていないこと、(2)オイルショックの記憶が風化する一方、長い経済停滞によってエネルギーの量的確保の必要性の認識が薄れていること、(3)原子力技術に対する期待感や先進性のイメージが、福島第一原発事故によって喪失してしまったことなどがあげられよう。

 こうした中で、原子力が日本の国力や国益にとって「特別に」必要だと考えている政治家はどれほど残っているだろうか。いま緊急に必要なことは、日本にとって原子力エネルギーがエネルギー安全保障、経済成長、温暖化対策等の観点から「特別に」必要であることに関する政治的・行政的再確認だ。行政的にはエネルギー基本計画などの形での閣議決定、政治的には政権与党の党決定という形で、原子力政策への国のコミットメントを再確認しておくことが、その後に実現しなければならない制度改革や関連予算設定の大前提となる。

 第二に、電力システム改革の進展だ。今次の電力システム改革は、震災時の計画停電や相互融通の不足などを、既存の電力システムの弱点が露呈したものと捉え、電力価格の自由化により市場での需給調整の世界にシフトすることを目的とするものである。原子力政策との関連で最も重要なポイントは、総括原価方式による料金規制・一般担保の廃止だ。

 これらの制度は、電気事業法上の供給義務を果たすための発送配電設備の形成に必要な資金調達を確実にするという目的があった。原子力発電も長期安定的な投資資金を必要とするが、そのための資金調達にまつわるリスクを最小化する機能を果たしていたのがこれらの制度である。

 自由化でこれらの安全装置が廃止されれば、電力会社が原子力発電所のリプレース(建替え)や新設に関して、従前の好条件で投資資金を調達できる保証はなくなる。全面自由化された欧米各国で原子力発電所の新規建設が停滞したのも同様の理由だ。電力システム改革の詳細検討と同時に、原子力に対するファイナンス・リスクをどう限定するのか、公的な支援策も含めて検討する必要がある。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る