2024年5月13日(月)

教養としての中東情勢

2024年2月20日

 ラマダンはイスラム教の聖なる月。イスラム教徒は日の出から日没まで断食を行うが、人々の宗教心が高まり、反イスラエル行動が過激化する時期でもある。首相がラマダン開始までの作戦終了を命じたのはイスラム世界をこれ以上刺激したくないという裏の事情がある。

 だが、住民の移動手段もなければ、受け入れ先での水、食料、安全に眠る場所もほとんどない中で、どうやって140万人もの人々を動かそうというのか。病人や子ども、老人も数多くおり、退避は事実上不可能だろう。イスラエル軍はラファにはハマスの4個大隊が残っているとしており、しびれを切らした軍の一部が散発的な攻撃を始めている。

ネタニヤフの事情とバイデンの和平構想への目論見

 ネタニヤフ首相がこうまで停戦を拒むのには大きな理由が2つある。1つは国内の政治的問題だ。首相は昨年10月7日のハマスの奇襲攻撃を察知できず、ユダヤ人市民ら1200人もの犠牲者を出した責任を厳しく問われ、戦争が終われば、直ちに辞任を余儀なくされるのは必至とみられている。

 首相在任6期16年の海千山千のネタニヤフ氏も今度ばかりはその政治生命は風前の灯火というのが一般的な見方だ。支持率は15%にまで落ち、総選挙が行われれば政権を失うのは確実な情勢。政権を維持し、権力の座に留まるためには、国家の最優先課題として戦争を続ける以外にない。加えて、政権の一端を担う極右政党が停戦に同意すれば、離脱すると脅している事情もある。

 もう1つの理由は米国や国際社会が求めるパレスチナ独立国家とイスラエルによる「2国家共存」という和平方式をなんとしても拒否する考えによるものだ。戦争の調停役のバイデン政権やカタール、エジプトなどはこのところ、パリ、カイロ、ミューヘンなどで停戦交渉を続けてきた。

 米国やイスラエル・メディアなどの報道によると、合意案のたたき台としてまとまったのは▽6週間の停戦と人質の解放、▽パレスチナ暫定政府によるガザの再建と統治、▽国際平和監視団の展開、▽「2国家共存」方式による和平とその工程表――というのが骨子だ。この案の特徴は「単にガザ戦争の終結だけではなく、将来の中東和平の方式も含めて一括提案している」点だ。

 案を主導したバイデン政権はこの機会に乗じて、中東和平問題を一挙に解決しようと図っている。当然、11月の米大統領選挙に向け、外交実績としてアピールする思惑があるのは確か。バイデン大統領の対イスラエル政策に批判的な若者の支持取り込みを狙ったものと言えるだろう。


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