2024年5月15日(水)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2024年3月4日

 そうではなく、年功序列を廃止して、休職期間も「オフJT」でリスキリングをして復帰後に十分に才能を発揮し、優良な業績を上げた人材は、育児期間のスローダウンを「減点」することなく、上級管理職に抜擢するなどの処遇をすべきである。とにかく、産休や育休を「取らずにずっと頑張った」という態度だけを評価して処遇するのは止めるべきだ。

時間の浪費でも、行かなければ人事評価はマイナス

 2点目は、転勤、単身赴任、出張といった悪しき昭和の制度を徹底的に見直すということだ。まず転勤だが、希望するのであればいいが、希望に反して一方的に勤務地移動を命ずる人事が忠誠心の踏み絵として存在している。

 さらに悪いことにスキルの育成などとは別に「転勤というハードシップ(苦難)を我慢した」ご褒美に高いポジションを与えるなどというのが、昭和以来の人事制度としてまだ多くの企業に残っている。こうした制度や価値観は一切止めるべきだ。

 転勤命令に伴う単身赴任も、これだけ大規模で組織的なものは日本だけだ。要するに核家族の破壊であり、次世代に向けた家族のロールモデルをぶっ壊して、少子化社会を奈落の底まで連れて行く悪しきカルチャーである。

 子育てとキャリアの両立に悩む若い核家族を分断して、否が応でもワンオペ育児を強いる悪習であり、社会的に総見直しがされるべきだ。少なくとも、優遇税制は全て廃止して制度的に出口へ誘導するぐらいやって良い。

 転勤や単身赴任が少子化や女性活躍の「敵」だという認識は、それでも少しずつ広がってはいる。だが、出張の問題については十分に認識が広まっているとは言い難い。出張に関しては、どうしても必要な対外的な商談、設計や開発部隊による生産現場での確認、現地そのものへ踏み込んだ市場調査など、確かに必要なものもある。

 だが、日本企業の場合は、この他に社内会議の出張というのが非常に多い。支店長会議であるとか、経営計画の発表だとか、新年度のスタートだとか、実務というよりも儀式的な意味合いの出張がある。問題が発生した場合に、ネガティブ情報に拒絶反応を持つ経営陣が担当者を呼びつける「謝罪出張」などというのも無駄である。

 社内出張には、多くの場合は懇親会が伴うが、そこで交わされるのは新技術や経営環境に関する丁々発止の議論などではなく、多くの場合は社内政治の噂話など生産性とは無関係の時間の浪費に過ぎない。そして、そのような無駄な会合に限って、育児などの都合で出席できない人間は損をする仕組みがある。

 例えば、ご褒美の「視察出張」などというのもあるが、時差のある海外などへ行く場合は前後1週間は家を留守にすることになる。こうした出張も、本当の効果は怪しいにもかかわらず、家族の事情で渋ると昭和生まれの管理職はネガティブな評価を下したりする。これも改めるべきだ。


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