――今度は好熱菌との出会いについて教えてください。
大島氏:ちょうど大学を卒業する年に、ソ連(当時)が人工衛星スプートニクを打ち上げましてね。出遅れたNASAは、情報公開と国際協力という二つの方法でソ連に対抗しようとして、各国から研究者を呼び込もうとしていました。
私はもともと誰もやらないことをおもしろがって挑戦する性質なので、その話があったときに飛びついて、カリフォルニアのNASAの研究所に留学することになったのです。
研究所のある研究室で、地球以外の惑星に生物がいるかどうか調べるには似た環境にいる生物を調べるのがいい、ということで、金星のモデルとして、イエローストーンの温泉へ行き、高温の中で生息するバクテリアを採取して研究をしていました。
私はそのプロジェクトの人から話を聞いて、日本に帰ったら私自身がその研究を続行すると宣言しました。NASAの研究所では温泉の成分分析から行なっていましたが、日本なら全国の温泉の成分が本屋で立ち読みできるくらい容易にわかるし、温泉地も多いので、研究しやすいと思ったのです。
帰国してすぐに東大の理学部から農学部の新設の研究室に助手として移ることになり、余った時間は好熱菌の研究をしたいと思った私は教授に相談に行きました。その教授も理学部から移ってきた方でしたが、こちらが口を開く前に「自分はこれまで言わば実用に役立たない学問をやってきたので、少しは実学に近い研究をしたい。ついては高温で生息する好熱菌というものは、応用に結びつけやすく、そういうものを研究したい」と。まるで私自身が言いたいことを先に言われたような気がしました(笑)。
――大島先生はまるで最初から好熱菌を研究する運命だったようですね。
大島氏:とても運が良かったわけです。それでもNASAの研究所では、ただ話を聞いていただけですから、果たして本当に日本の温泉で好熱菌が取れるかどうかは半信半疑でした。好熱菌を採りに行くと言って採れなかったら恥ずかしいと思い、文字通り立ち読みで泉質を調べて、当時は無名だった伊豆の峰温泉に、休日を利用してこっそり出かけることにしました。
そうしたら、大学院時代の指導教官と東京駅でばったり会って、「どこへ行くんだ?」と訊かれて、非常に困ってしまった(笑)。温泉の水を汲むための道具や温度計なんかも持っていたのですが、遊びに行くようなことを言ってごまかしました。
実際には、拍子抜けするくらい簡単に採取できたので、嘘をつく必要はなかったのですが。今でもその時の菌は、それこそ世界的に研究用に使われていて、好熱菌というと真っ先に名前が挙げられるくらい有名になっています。ねらい通りというか、実用にもなって、例えば化粧品の保湿剤などにも使われているんですよ。